映画評「斬、」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・塚本晋也
ネタバレあり

塚本晋也監督初めての時代劇である。

動乱の気運の出て来た江戸末期。農村で農家を手伝っている浪人・池松壮亮は、一家の息子・前田隆成に剣術を教えている。腕を上げて来た息子がすっかり江戸に出て侍の真似事をしようとしていることにいら立つ姉・蒼井優はその不安・不満を池松に訴える。
 二人に目を付けるのが公儀(幕府)側につこうとしている老浪人・塚本。そこへ性悪な浪人グループが現れ、静観する池松の思いに反して、塚本が倒してしまう。百姓たちは喜ぶが、池松の危惧した通り、生き残った一人が別の仲間を連れてきて、いきり立つ前田を殺す。
 姉は思いを寄せる池松に復讐をして欲しいと願い出るが、平和主義者の彼は実行できない。結局塚本が再び殺すのだが、斬ることのできない池松に向って自分と勝負し、勝ったら江戸へ出ろと迫る。

というお話で、体裁は時代劇だが、前作「野火」の延長上にある作品のように思う。
 池松壮亮扮する主人公は腕は立つが平和主義者で、謂わばモハメッド・アリの如き良心的兵役忌避者のような感じであるのが面白い。彼が“斬れない”のは単なる臆病のようにも見えるが、暴力(復讐)が暴力(復讐)を呼ぶという現代的な思想がベースにあるのだろう。
 つまり、これは同時代的な視点の反戦(反テロ戦争)映画なのではないか。

その狙いのせいか、台詞がひどく現代的で、中でも蒼井優のヒロインは有島武郎「或る女」のヒロインのような近代人的な自我を持つ。従って、本格的な時代劇と思って見なければそれなりに楽しめる。それどころか、時代劇と反戦映画の中間を行くようなところに興味のポイントが集約される。
 殺陣は割合良いと思う。しかし、練習の場面ではなく、本番のチャンバラ場面で何をやっているかよく解らないところが多いのは良くない。何度か繰り返される、カットを切ってのズーム(ポン寄り)もあざとい感じがあって余り感心しない。

遂に「妹背山婦女庭訓」(の浄瑠璃台本)を読んだ。浄瑠璃・歌舞伎の時代物は時代考証を100%無視するのが愉快(但し、気分は落ち着かない)。大化の改新をテーマにした「妹背山」では、侍など影も形もない時代のお話なのに、何と浪人まで出て来る。何故そうなるかと言えば、作者たちが塚本監督のように“生きている今”を表現しているからなのではないかと僕は思うのである。

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