映画評「キートン将軍」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1926年アメリカ映画 監督バスター・キートン、クライド・ブラックマン
ネタバレあり

Allcinemaにおける本作の上映時間は106分だが、75分が正式であると思う。サイレント映画の上映時間は実際より長く表記されることが多い。アルフレッド・ヒッチコックの作品でもそういう現象が見られる。サイレント時代は現在より遅い回転数で映写機が動いていて、その記録が採用されているのではないかと僕は想像する。

それはさておき、ブログ開始当初バスター・キートンの短編映画を幾つか紹介したが、長編映画は一本もしていない。そこで本作。

本作はキートンの代表的作品で、公開当時は酷評されて観客の動員数も芳しくなかった。しかし、1970年頃の映画評論家が選ぶ映画史上の傑作20選に入っていたし、新作映画が強いIMDbでも現在ベスト200に入るなど、映画通の多くが認める傑作というのが現在の定評である。

南北戦争中にあった実話からひねり出したお話で、鉄道の車掌という身分の為に南軍に入隊できず愛する女性マリオン・マックに嫌われてがっかりのキートンが、北軍の作戦により奪われたこれまた愛する機関車“将軍号”を奪還しようと、トロッコや自転車で追いかけた後、次に協力する兵士を乗せた筈の機関車を使って結果的に一人で追いかける。

それまでも十分楽しめる内容であるが、ここからが断然面白い。何気なくこなしているので特に若い人は見落としがちながら、この間彼は実際に走行している機関車の上を終始走りまくるのである。半世紀前のジャッキー・チェンであった彼はスタントマンは使わない。この時代のコメディアンは彼は限らず大概そうなのだ。アクションは全体の流れを見せる為にカットを刻まず、しかもロング(引き)で撮るから誤魔化しが利かない。本当の本物だ。

機関車だから燃料用に丸太が必要で、色々と丸太を活用しているのが面白く、僕が一番気に入ったのは逃げる北軍が妨害の為に線路に投げ捨てた丸太を機関車から一早く下りて拾ってエプロン部分に乗ると、目の前に迫ったもう一本の丸太を丸太で排除するという場面。余りの素早さとタイミングの絶妙さにゴキゲンになってしまう。大砲をめぐるドタバタも可笑しい。

機関車に一人乗っている間は燃料をくべ、障害物をどかし、時にはポイントを切り替えるという八面六臂の大活躍。涙が出て来るような、しかし実際には転げまわる程おかしい奮闘ぶり。

さて後半。敵軍の列車が止まる。彼も降りてとある一軒家に忍びこんでいるとそこへ、偶然乗り込んでいたマリオンを拉致した北軍の将軍たちが入ってきて作戦会議。キートン氏、マリオンを奪還すると共に急ぎ戻って南軍幹部にこれを伝えることになる。今度は北軍から逃げる立場として、マリオンと協力して妨害工作をする。

ヒロインが助けられるだけの女性でなくなかなか逞しく、キートンが意外に乱暴に彼女を扱う辺りもレディ・ファーストに反する行為でなかなか興味深い。終盤は一連の列車場面が終り、川を挟んでの北軍対南軍の激しい戦い。ここではキートンのやることなすことが結果オーライ的に自軍に奏功して勝利をもたらすというお笑い。それ自体は笑劇として定石的な扱いながら、次々と繰り出すスピーディーな見せ方で飽きさせない。

今回が3回目の鑑賞だが、やはり面白い。食わず嫌いでキートンを観ていない人には是非一度観て貰いたい。

レディ・ファーストというのは、女性を尊重する精神の表れではない。本来は夫の影を踏むなという儒教精神と同じ発想であり、開拓時代のそれは男性優位社会に満足した男性の“上から目線”の態度なのだ。

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