映画評「メッセージ」(2016年)

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督ドニ・ヴィルヌーヴ
ネタバレあり

今まで全くつまらない作品のないドニ・ヴィルヌーヴの作品ということで、観る前からブルーレイに落として保存版にしてしまった。それがずばり正解で、実に面白い。ありそうでなかった着想だからである。

ある日突然12機のUFOが同時多発的に世界各地に現れる。主たる舞台はその一つであるアメリカである。娘を失ったばかりの言語学の権威たる女性エイミー・アダムズが、米軍に招聘されてエイリアンの言語解析に当たることになる。科学者ジェレミー・レナーと共に、エイリアンに接近して研究を進め、やがて会話が成立するようになると、その目的を聞く。彼らの「武器を提供する」という言葉の真意が解らず、中国は攻撃を考え始める。

と書いてくると、SFアクションのように思われるが、さにあらず、哲学SFである。

ヒロインは、亡くなった娘との日々を回想するうちに“武器”が“時を自在に漂うこと”であると把握する。地球人は時を川のように一方的に流れるものと考えるが、彼らのそれは海流のように漂うのだ。そして、彼女が回想する過去に現在の記憶が影響を与え始め、やがて現在若しくは未来が過去になり、過去が現在若しくは未来になる。お話は円環する。円環するという表現も厳密には違うが、解りやすく説明するとこうなる。

彼女の娘の名前はHannah、回文である。娘は過去に死んだはずなのに、それはレナーとの間に生まれる未来の子供であり、その名前が回文なのも過去も未来も持たない宇宙人との遭遇が原因なのである。宇宙人の文章に時制がないのは、彼らが一方的に進まない時を生きているから。そして、生まれ来る娘が死ぬと解っていても二人は結ばれる道を選ぶ。

テッド・チャンという作家の短編SFを原作とするが、「灼熱の魂」という哲学的な作品で鮮烈に現れたヴィルヌーヴらしく、思弁的な人間が必ず考えるであろう“時と人間存在との関係”に思いを馳せ、誠に興味深い。時間の捉え方が哲学的であり、仏教的である。暗い場面が多いのに閉口させられるものの、後半はそれが気にならないくらい引き込まれる。

アメリカ人は宇宙人二体にアボット&コステロと名付ける。戦中から1950年代にかけて人気を博したアメリカの喜劇コンビである。僕ら程度のベテラン映画ファンなら解るが、若い人はそこそこの映画ファンでも解らないかもしれませんな。

前世紀末くらいから、”d”の発音を「ドゥ」と表記する配給会社が増え、映画関係者もそれに倣っているが、マルキ・ド・サド、カトリーヌ・ドヌーヴという表記が長く定着しているので、僕は「ド」表記に拘りたい。セシル・ド・フランス、ドニ・ヴィルヌーヴ、ジャック・ドミーなどである。

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