映画評「パイレーツ・ロック」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年イギリス映画 監督リチャード・カーティス
ネタバレあり

ビートルズが武道館で演奏をした1966年、日本では学校側が生徒たちに公演に行かせないように圧力を掛けたと聞く。同じ年イギリスではどうだったかと言えば日本以上に保守的で、本作によれば、英国唯一の公式ラジオ局であるBBCは一日45分しかポピュラー音楽を流さなかった。

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それで庶民に生まれた不満に対応すべく発生したのが海上に浮かぶ船から一日中ロックを中心としたポピュラー音楽を流し続ける海賊局である。ケネス・ブラナー大臣を筆頭とする政府は彼らの言動が公序良俗に反するとして何とかこの放送を中止に追い込もうと悪戦苦闘、方法がなければ法律を作ってしまえと「えいや」で海洋犯罪法なるものをこしらえるが、彼らには市民の絶大なる支援がありまんまとしてやられる。が、政府より怖い嵐により海賊局船は難破してしまう。

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というのが根幹となるお話で、こちらではロックの代名詞たる反体制的言動が徹底して示される。最後に官憲をもっとギャフンと言わせていたなら文句なしでした。

一方、母親から矯正の為に何故か送られてきた少年トム・スターリッジ君が筆卸しをするまでの紆余曲折やら二人の人気DJフィリップ・シーモア・ホフマンとリス・エヴァンスが女性トラブルでマスト登りをする騒動、その原因となったDJクリス・オダウドのたった半日の結婚生活といったエピソードがとりとめなく扱われる枝葉の部分はロックが代弁する庶民の喜怒哀楽を多面的に点出して、監督のリチャード・カーティスが呼吸良く捌いている。

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しかし、何と言ってもご機嫌なのは扱われる名ポップスの数々、必ずしも1965~66年頃に流行った曲ばかりではなく、多少後年のものも入っているが、DJが掛ける曲ではなくBGMとしてなら全く問題ないだろう。以下に代表的なところを挙げてみる。
 キンクス「オール・オブ・ザ・ナイト」「サニー・アフタヌーン」、ザ・フー「無法の世界」、スモール・フェイセス「レイジー・サンデー」、ローリング・ストーンズ「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」「夜をぶっとばせ」、ゼム「ヒア・カムズ・ザ・ナイト」、ヤードバーズ「フォー・ユア・ラブ」、プロコル・ハルム「青い影」、ボックス・トップス「あの娘のレター」、ホリーズ「アイム・アライブ」、ドノヴァン「サンシャイン・スーパーマン」、シュープリームス「ハプニング」、スモーキー・ロビンソンとミラクルズ「ウー・ベイビー・ベイビー」、ダスティ・スプリングフィールド「この胸のときめきを」、ルル「いつも心に太陽を」、スキーター・デーヴィス「この世の果てまで」、ハーブ・アルバートとティファナ・ブラス「ジス・ガイ」、映画音楽「夕陽のガンマン」などロックに留まらず1960年代を彩った多種多様な楽曲およそ50曲が使われ、渋い名曲も少なくない。60年代~70年代のポピュラー音楽は僕が好む分野なのでほぼ全曲知っており、大変楽しめた。出来ればデーヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」ではなく60年代後半の曲で締めてほしかったなあ。

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折角クリス・オダウドの役名がSimple Simon(愚か者)なのに、1910フルーツガム・カンパニーの名曲「サイモン・セッズ」Simple Simon Saysが掛からないのは勿体ない。裸女が大勢坐っているのはジミ・ヘンドリックスのLP「エレクトリック・レディランド」のパロディーだろうか? 

細かい話はさておき、60年代の音楽を巡る風俗映画として記憶に留めるに値する作品。しかし、映画ファンより音楽(洋楽)ファンのほうが楽しめるでしょう。

先日の「キャデラック・レコード」に続きこういう映画を見るとCDを買いたくなる衝動がまたぞろ起こって困る(笑)。で、現在キンクスのオリジナル数枚、ダスティ・スプリングフィールドのベストを物色中。

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