映画評「巌窟の野獣」

☆☆★(5点/10点満点中)
1939年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第23作。渡米前最後の作品である(但し、最後の英国映画ではない)。
 原作はダフネ・デュ・モーリアの小説「ジャマイカ・イン」だが、渡米後第1作「レベッカ」と、彼女の作品が二作続いたのは全く偶然と理解したほうが良い。実は渡米第1作には「レベッカ」ではなくて、タイタニックの遭難をテーマにした作品が企画されていたのである。

19世紀初めの英国はコーンウォール、孤児になったアイルランド娘モーリーン・オハラが叔母マリー・ネイを頼って、彼女の夫レスリー・バンクスが経営しているジャマイカ・インを訪れる。しかし、そこは悪の巣窟で、難破船の乗員を皆殺しにして略奪を繰り返している連中が集っている。しかも、彼らを操っているのは領主であり治安判事のチャールズ・ロートンである。

というお話は海賊映画のヴァリエーションでもあるが、本来背後に潜んでいるべき治安判事を事実上の主役にするという辺りに、水戸黄門の悪代官を前面に出しても話の構成のしようがないように、相当に無理がある。製作者の一人がロートンだから仕方がなかったのかもしれないが、どうにも戴けない。

モーリーンが、実は潜入した官憲であるロバート・ニュートンをリンチから救い出し、二人で海を泳いで逃亡したはいいが、頼る先がロートンなのだから万事休す。
 冒険的場面の殆どは、本当のアイルランド系美人で僕がご贔屓にしているモーリーンが担っていると言って良いのだが、ロートンの大げさな怪演の前に影が薄くなったのは甚だ残念。
 ヒッチコックは環境描写に巧さを見せるが、直球一本勝負的に場面を積み重ねているだけで全く面白味に欠ける。これに比べれば次回作「レベッカ」は大傑作である。

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