映画評「アルプススタンドのはしの方」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・域定秀夫
ネタバレあり

今年の全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)は文字通り雨模様で、今までのところやれない日が多い。オリンピックとの関係で開幕を少し遅らせたのも痛い。
 本作はそれとは対照的に誠に天気の良い甲子園の一試合を背景に語られる。あくまで弱小チームの学校関係者だけを写し、グラウンドが一瞬たりとも写されないのが良い。

埼玉県代表の公立弱小高校・東入間高校側の応援席で、演劇部長のあすは(小野莉奈)とインフルエンザで演劇大会出場辞退の原因を作った部員ひかる(西本まりん)が、アルプススタンドのはしの方で熱意もなく試合を見ている。大概の女子高生はそうなのだろうが、犠牲フライも解らない
 そばには元野球部投手の藤野(平井亜門)もいるが、野球の話は程々。彼が野球部を辞めた理由には、いくら練習をしても現在試合に出ているエースの存在がある。同じような野手に矢野がいる。彼は辞めなかった結果、甲子園メンバーに選ばれ、犠牲バントを成功させる。

犠牲バントは本作のキーワードの一つである。

エースは女生徒に大人気で、三人から離れて立つ学校一番の秀才女生徒・惠(中村守里)もその一人。吹奏楽部長・智香(黒木かおり)と付き合っていると聞いてショックで体調を崩す。
 それを巡って女生徒たちの間に少々すき間風が吹く。ところが、連発される“しようがない”という言葉に対して、演劇大会辞退に引け目を感じていたひかるが反旗を翻し、そこに応援団長を自任する茶道部監督・厚木教諭(目次立樹)が枯れた声で応援するよう鼓舞しにやって来ると、そこにいる、何かしら懊悩を抱える全員に希望が湧き上がってくる。

全員が大学を卒業した、5年ほど後のこと。その4人がプロ野球の試合を見にやって来る。万年控えだった矢野が試合に出ているのだ。
 実は、「ゴドーを待ちながら」のゴドーよろしく一度も姿を見せない矢野君が影の主人公のようなもので、絶対“しようがない”と思わなかった彼は努力の結果、人生において起死回生の逆転ホームランを打ったのである。
 その試合を見る4人の “しようがない” という諦観を吹き飛ばさせた、あの甲子園での貴重な敗戦よ! 

実に清々しい小品で、作品ムード的に「櫻の園」(1990年)に似た印象がある(ぐっとコミカルだが)し、「運命じゃない人」(2004年)のように新鮮かつ思わぬ拾い物をしたという気分にもなる。
 先日のフランス映画「スペシャルズ!」は観客に問題提起をして効果的な映画だが、映画的に断然良い映画とは本作のような作品を言う。高校演劇部の作品が原作という変わり種。当然演劇的だが、実に良いセンスをしている。

僕も住民だったことのある埼玉県には入間郡と入間市があり、東入間高校というのはいかにも本物らしい。相手の強豪チームについて、早稲田実業を僕は想起した。

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