映画評「霧の波止場」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1938年フランス映画 監督マルセル・カルネ
ネタバレあり

マルセル・カルネの戦前の代表作で、30年ぶりくらいの再鑑賞になりましょうか。

ベトナム(と字幕には出る。インドシナと言っているかもしれないが、フランス語なので解らない)の戦線から脱走した兵隊ジャン・ギャバンがトラックに拾ってもらい、ル・アーブルに到着する。その間に一匹の犬に好かれ、やがて彼自身 “自分の犬” と称するようになり、一緒に海辺に立てられた酒場に寄る。
 そこには様々なはぐれ者がいて、人生に絶望する画家は似た背格好のギャバンが別の服を欲しがっていると知り、翌朝服を脱いで海中に消える。かくしてギャバンは服もパスポートも手に入れる。
 その前夜に酒場の奥で十七歳の少女ミシェル・モルガンと知り合ったギャバンは、翌朝歩いている最中に彼女がお金を彼のポケットに入れたのに気付き、雑貨屋に入って彼女に贈り物をしようとする。ここで判るのは、店主ミシェル・シモンが少女の養父であることであること。しかし、シモンが年甲斐もなく彼女を自分のものにしようとしていることを知り、俄然ギャバンの心はこの幸福を与えてくれそうな少女に傾く。
 彼女には、町である男を探し回っているチンピラのピエール・ブラッスールも関心を持ってい、執拗に絡んでくるので、ギャバンは男を叩きのめす。この侮辱に耐え切れないチンピラは、シモンを倒したその足で間もなく出港する船に向って歩み出したギャバンを、背後から撃つ。ギャバンがこと切れた瞬間、船は汽笛を鳴らして出港する。

指摘されている方もいらっしゃるように、この幕切れが前年に同じくギャバンが主演した「望郷」に似ていて損をしているのは事実かもしれない。とは言え、日本で公開されたのは「望郷」が1939年、本作が49年と10年のスパンがあり、同時代的な評価には大きな影響はなかったと思われる。
 寧ろ製作から10年以上経って公開されながら、30年代フランス映画の底力で相応の評価がされたことが当時の評価(【キネマ旬報】1950年度ベスト選出で11位)から伺われ、実に大したものであると思う。

戦後フランスのインテリは、かかる抒情性に溢れる映画を嫌ったのに対し、霧や港、悲しい結末など抒情を好む日本人の心を打つものは十分ある。日本人もヌーヴェル・ヴァーグの洗礼を受けて当時よりはぐっとドライな作品を好むようになったかもしれないが、若い日本人の中にまだまだこの手を好む人がいそうだ。先般観た「影に抱かれて眠れ」ように、犯罪の中にも強い情緒を盛り込む作品が未だに作られるにお国柄でござる。

配役について。ギャバンが一見不愛想な人情家をいつも通り好演しているが、鮮烈なのはレインコートを着たミシェル・モルガン。彼女なしにこの映画はここまで高い抒情性を発揮できなかっただろう。

綴りは違うが、女優ミシェル・モルガンとベテラン男優ミシェル・シモンが共演。フランスの人名でもややこしいのがミシェル。

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この記事へのコメント

モカ
2021年06月02日 22:10
こんばんは。

>ベトナム(と字幕には出る。インドシナと言っているかもしれないが、フランス語なので解らない)

なんだかこの頃のフランス語はなまってますなぁ(笑)そういう問題ではないですけど・・・
冒頭のトラック運転手との会話で「ベトナム」と字幕はなっていましたね。 気になって3回くらい聞きなおしましたが、「トンキン」って言葉が聞こえたように思います。 
「(ル・アーブルの港より)トンキン湾のほうが霧が濃い」
 じゃないでしょうか・・・聞き取ったというより推測ですが。

>ミシェル

 ガブリエルなんかも男女両用ネームですね。という事は大天使の名前は性別不問でしょうか? 

夕刻に見だしたのですが入りル・アーブルに到着して酔っ払いに絡まれるところで邪魔が入り中断中です。
とりあえず1回目の「ベトナム」の件をご報告させてもらいました。 




オカピー
2021年06月03日 17:01
モカさん、こんにちは。

>気になって3回くらい聞きなおしましたが、「トンキン」って言葉が聞こえたように思います。

どうもです。
 プライムビデオが再々するまでにかなり時間がかかるので、止めて観ることがないのですよ。一旦止めただけでも結構再開までに時間がかかる場合もあるので避けているわけです。

>ガブリエルなんかも男女両用ネームですね。
>という事は大天使の名前は性別不問でしょうか?

ミシェルは男女で綴りが違うのですが、発音は同じなのでしょうか。
英語圏でも、エイドリアンもそうみたいですね。「ロッキー」の奥さんは女性ですが、映画監督エイドリアン・ラインは男性。「ロッキー」のせいで、一時女性監督と思っていたら男性でした。恥ずかしかったなあ。
2021年06月04日 16:46
Michèle Morgan ミシェル・モルガン

Michel Simon ミシェル・シモン

カタカナにすると同じミシェルですが、発音も微妙にちがうでしょう。
男と女と同系統の名前だけどちょっとちがう、みたいな。
みつおとみつこ、みたいなかんじになるんでしょうかね。

フランス映画ですが、私の父親くらいの年代の人にこの時代のフランス映画がお好きな洋画ファンが多いように思います。日本でよく見られていた時期があったんでしょうね。
オカピー
2021年06月04日 22:26
nesskoさん、こんにちは。

>カタカナにすると同じミシェルですが、発音も微妙にちがうでしょう。

綴りが微妙に違いますので、そういうことなんでしょうねえ。
 フランス語は全然解らないので、重いアクサンなどと言われても全く解らないです。僕が勉強したロシア語よりは簡単であると、言語学の先生が仰っていましたが。

>フランス映画

1930年代から50年代までは純粋に人気があったと思います。60年代から70年にかけてはアラン・ドロンの人気に引っ張られた印象。
 80年代にCGが普及し始めて、フランス映画に限らず欧州映画がハリウッド映画に接近したことが、欧州映画の人気を却って失わせたと思います。
 一方で、昔から曖昧さを残す作品が多い欧州映画が苦手という人もいましたね。その傾向は益々強くなっているかもしれませんね。
モカ
2021年06月04日 23:13
こんばんは。

ジャンとジャンヌとかフランソワとワランソワーズなんかと違って、ミシェルの発音は男女同じじゃないかな・・・?
ポールの歌う”ミシェル”と禁じられた遊びの”ミシェル”は同じように聞こえますし(笑)スペルからいっても同じ感じがしますね。

「トンキン」ですが2回目に聞いた時、「トキョ」と聞こえて「東京?」となって、そういえば昔トンキンは漢字表記で「東京」だったと思い出したのでした。(ベトナム戦争といえばトンキン湾事件というのがあったのが記憶の片隅にあったので)

ジャン・ギャバン  歳をとってからの方が素敵かな?
「冬の猿」が観たくなりました。
オカピー
2021年06月05日 20:43
モカさん、こんにちは。

>ポールの歌う”ミシェル”と禁じられた遊びの”ミシェル”は同じように聞こえますし(笑)

英国人のポールの発音は参考にならないかも(笑)。だから(笑)付きなんですね。
 僕よりはフランス語をやっているらしいモカさんにお聞きしますが、eに重いアクサンと鋭いアクサンが付くとどうなるんですか?
 ネットで調べれば多分解りますが(笑)

>昔トンキンは漢字表記で「東京」だったと思い出したのでした。

トンキンならベトナムですね。確かにトンキン湾事件は有名で、ベトナム戦争絡みの映画を観るとよく出てきます。
 東京=トンキンと言えば、20年くらい前に接待で中国・香港から来た連中を東京ディズニーランドを連れて行ったことがあるのですが、彼らはトンキン・ディズニーランドと言っていましたよ^^