映画評「ウルフ・アワー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年アメリカ=イギリス合作映画 監督アリステア・バンクス・グリフィン
ネタバレあり

僕の基準では日本劇場未公開映画に相当するが、ナオミ・ワッツが主演(兼エグゼクティヴ・プロデューサー)していると知って観てみた。
 IMDb での平均採点が4.9と相当悪いものの、実力はもう少し高い。面白いかと問われれば僕も否と言うしかないが、本作が実力を下回る評価しか得られない理由は、期待していたものと違ったという失意が大きいであろう。

以下のような話である。

1977年。ブロンクスのアパート(日本で言うマンション)に閉じこもって外に出ない美人作家ナオミは、意味もなくブザーを鳴らす悪戯に頭を悩ます。警察も呼ぶが、そのベテラン警官が厭らしい誘いをするので追い返す。その一方で、性欲も高まってきて、売春夫を呼んだりもする。
 連続殺人事件(後に捕まる犯人の名前はデーヴィッド・バーコウィッツ)が連日ニュースをにぎやかし、窓下では暴動が胚胎しやがて爆発する。その間に友人の劇作家ジェニファー・イーリーが行方を掴んで訪問してくれるが、結局は怒って追い出してしまう。
 明らかに彼女は精神を大分病んでいるが、彼女が外に出られなくなったことの要因は、大ヒットした自分の家族をモデルに書かれたとされる第一作のスキャンダラスな内容により父親が死んだという噂と家族からの総スカンらしい。それはジェニファーとの会話でミステリー的に提示される。
 それから4年経って二作目を書き続け遂に完成するが、原稿を届けるツテが飲食物の配達をしている黒人青年ケルヴィン・ハリスン・ジュニアしかない。高い費用を奪った彼がなかなか帰って来ない。下では暴動が起き、青年らしい人物がやられる。さすがに気になった彼女は遂にアパートから出る。出版は無事に行われ、今回も成功を収める。

この内容をサイコ・スリラーのように喧伝するから観客は当惑する。口の悪い人は罵倒する。実際には、優れた作家が自分の精神の中に抱えた(恐らくは家族を苦しめたという)苦悩を克服するまでを綴った心理劇(まあサイコなのはヒロイン自身)なのである。
 克服と言っても、黒人の若者が怪我をしたのではないかと心配したのが文字通り怪我の功名であるに過ぎず、この辺りは心理劇として甚だ馬鹿馬鹿しい流れであって、全く褒められない。
 実際に起きた連続殺人事件やブロンクスの暴動を絡めているが、これに大した意味はないと思われる。彼女の内なる恐怖を、外の風景に仮託しているだけである。作者本人がもし“違う”と言っても、“しかし、そうとしか読み取れない作り方をしている”と反論することが僕にはできる。

という具合にそれほどきちんと出来ていないので、良い点も進呈できないが、ヒロインの心理や背景を読む面白味は一応ある。

ウルフ・アワーというのはTV番組の名前。イングマル・ベルイマンの作品の邦題に「狼の時刻」というのがありましたね。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2021年06月20日 10:19
私はナオミ・ワッツさん主演ということのみ知って見たので、宣伝文句も何も頭にないわけで「期待を裏切る感」はまったくありませんでした。
私がなるべく事前情報を仕入れずに見たい、と思うのは、まさにそこなんですよね。…とはいえ、WOWOWの全米新作映画情報番組なんか見てますけど…。

悪くはなかったけれど、それほどうまくもいかなかったなという作品でしたが、シチュエーション的には嫌いじゃないです。
オカピー
2021年06月20日 22:16
ボーさん、こんにちは。

>私がなるべく事前情報を仕入れずに見たい、と思うのは、まさにそこ

僕もアウトラインすら知らないことが多いデスね。場合によってはジャンルも把握していないことも。
 映画のニュースを追わなくなって久しいので、タイトルを知らないものも多く、まず監督の名前を見、それも知らない人であれば、キャストをチェックします。興味がある俳優が出ていれば観ますね。本作もその口。

>シチュエーション的には嫌いじゃないです。

これをサイコ・スリラーなどと言うから、客が肩透かしをくらって、必要以上に悪い点を進呈する。宣伝も良し悪しですね。