映画評「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年ポーランド=イギリス=ウクライナ合作映画 監督アグニエシュカ・ホランド
ネタバレあり

ガレス・ジョーンズというジャーナリストを取り上げた実話ものである。スターリン時代の旧悪がテーマ。

1933年、英国首相ロイド・ジョージ(ケネス・クラナム)の外交顧問だった青年ガレス(ジェームズ・ノートン)はヒトラーの危険性を唱えて干され、しかしそのツテを大いに利用してモスクワへ向かう。彼と事前に話した在モスクワのジャーナリストのポール・クレブ(マルティン・チャルニク)は彼の到着前に強盗に殺されたとされるが、どうもソ連当局による暗殺である。
 ソ連関係者(クシシュトフ・ピエチンスキ)と接触に成功し、母親の故郷でもありソ連の “豊かさ” の秘密を解く鍵と踏んだウクライナに向うと、トイレに行くふりをして三等列車に紛れ込み、危険を掻い潜ってウクライナの農村地帯を歩くが、そこで大量の人民が飢えている現状を見る。見るどころか、子供が彼に出してくれた肉はその兄の肉であると知って吐き気を催す。
 その後逮捕された彼は、真実を話さないこと(と彼らは言わない。真実を書いたらその瞬間にフェイクとされる。トランプ式の理屈である)を条件に帰国を許される。故郷ウェールズのローカル新聞社に勤め始めた彼は、大新聞社の創設者ウィリアム・ハースト(マシュー・マーシュ)が例年通り当地にやって来るのを捉まえ、スクープを発表する。

映画はここで終わるが、2年後彼は満州で捕えられて銃殺されたという。

冒頭で記者魂という言葉を使いたかったのだが、少し違うのである。彼の興味を引くのはただ真実のみなのだ。それでも、ウクライナの大飢饉(ホロドモール)を目の当たりにした彼はさすがに興味を超える義憤・公憤に駆られ、遂には知った真実を発表することになる。記者魂と言えばこれも記者魂なのだろう。

全体主義国若しくは独裁政権下で起きる旧悪はなかなか他国には知られないもので、ホロドモールはユダヤ人のホロコーストに比べて余りに知名度が低い(ソ連からロシアに変わってもその全体主義的傾向は余り変わらない)。中国大躍進時代の大飢饉のほうがまだ知られていようか。

この映画の関心はホロドモールそのものにもあるが、他に二つあると思う。
 一つ。主人公のようなジャーナリストがいる一方で、ピュリッツァー賞を受賞しながらソ連の旧悪をひた隠しにし保身に走ったウォルター・デュランティ(ピーター・サースガード)のような男のいること。死んでは花実が咲かないのも事実だから腐っているとは言えないが、ポーランドの女性監督アグニェシュカ・ホランドはそれはジャーナリズムの目的に悖ると感じているのだろう。
 もう一つは全体主義そのもの。最初に原稿を書いている人物は何とジョージ・オーウェルなのだ。「1984年」のほうが有名かもしれないが、全体主義を風刺してそれ以上の価値があるとも言われる「動物農場」(1945年)をこの話のソ連に重ねて映画は完結する。僕は「動物農場」しか読んでいない。

本作の解釈では、ジョーンズがあった時の若きオーウェルは世間同様にスターリンを過大評価し、全体主義の怖さに真に気付くのはその後ということになる。

ハーストの孫娘パトリシア・ハーストの誘拐事件(1974年)は大騒ぎでしたね。僕はこの事件で新聞王ハーストの名前とストックホルム症候群という用語を知った。

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