映画評「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2019年アメリカ映画 監督ライアン・ジョンスン
ネタバレあり

昨年観た「アガサ・クリスティー ねじれた家」と似た構図のお話だが、オリジナル脚本にしてあの作品より遥かに面白い。本作は、観光要素のないポワロものみたいなものと言えば、当たらずと雖も遠からずだろうか。

老ミステリー作家クリストファー・プラマーが喉を切り失血死した状態で発見される。邸宅内で刑事二人と探偵ダニエル・クレイグが聞き取り調査を始める。と言っても警察は自殺と決めつけており、正体不明の人物に依頼された探偵に付き合っているというのが実際らしい。

戦前の本格推理小説に甚だ不自然なのは、刑事と探偵が一緒に捜査するという設定で、探偵の知人である語り手がそこに加わるとなると益々現実離れして来る。一見本作はそれと同じように見えるが、調査を依頼された探偵に警察が協力しているという設定で状況が違い、大きな問題はない。まあ現実云々が問題なのかはともかく、本格ミステリーは楽しいジャンルですなあ。ゲームっぽい映画とは違う意味でのゲーム的感覚が良い。

事実上の主人公と言っても良いのは、老作家と仲の良い看護婦アナ・デ・アルマスで、嘘をつくと吐いてしまうという特性が頗る効果を上げている。人間ウソ発見器みたいなものだし、彼女の発言に嘘がないと断定できる設定にすることでミステリーとしての見通しが実に良いのである。殊勲の第一である。

為に映画はかなり早めに作家に死に至る過程を早々に見せる、「めまい」(1958年)作戦を取る。
 要は、アナが与えた薬がいつの間にか入れ替わってい大量のモルヒネを呑んでしまった作家が、死が回避できないと悟るや否や、推理作家の頭脳を発揮して事前にアナに行動を指示した上で、自分で喉にナイフを突きつける。老作家曰く、警察に語る時はポイントとなる部分だけを正直に話せば嘘にならないので吐くこともない、と。

かくして探偵VS亡き老作家という構図(倒叙ミステリーの体裁)のお話になるかと思わせておいて、アナに届く “真実を知っているぞ” という脅迫状と、アナが遺産を独占するという予想外の遺言状が出ると、他の家族を憎む一家のはぐれ者クリス・エヴァンズが彼女の味方として協力することになって、映画は暫しアナの冒険に方向が変えられる。
 つまり、ミステリーとして老人の死以上に、誰が彼女を脅迫しているかという謎の解明に傾いていく。これがアナ自身も知らない老人の死の真実の解明にも繋がる。なかなか巧みな作劇である。
 80代半ばの作家の母で100歳は優に超えているはずの老婦人の扱いや、家に残されている土の扱いも本格ミステリー的な妙味があってゴキゲン。
 他にも言いたいことがあるが、それを述べると本格ミステリーのエチケットに反するところが出るかもしれないので、以下省略。

欲深い家族のメンバーを演ずるのは、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン、ドン・ジョンスン、トニ・コレット。

本作にピンチョンの小説「重力の虹」の題名が出て来る。本作を予約録画している先週の日曜夜、そんなこととは知らず、僕は世界文学事典でピンチョンと「重力の虹」を調べていた。この映画を観た直後、レディオヘッドのアルバム「アムニージアック」をCD化した。その中に偶然にも「ナイブズ・アウト」という曲があった。面白いなあ。

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