映画評「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年フランス=ベルギー合作映画 監督レジス・ロワンサル
重要なネタバレあり。ご注意願います。

本好きで翻訳家を目指したことがある。小説の類の翻訳は極めて狭き門で挫折したので、その意味でも興味を惹かれて観たが、WOWOW【W座からの招待状】の案内人・小山薫堂氏ほどには感心できない。
 ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」のシリーズ第4作に際し出版社が各国語の翻訳者9人を地下に閉じ込めて事前の漏洩をふせいだ実際の “事件” が着想源らしい。

フランス。ブラックという作家の人気シリーズ完結編の内容が漏洩されないように、英語(アレックス・ロウザー)、スペイン語(エドゥアルド・ノリエガ)、イタリア語(リッカルド・スカマルチョ)、ロシア語(オルガ・クリュレンコ)などの翻訳家が各国各地から呼び出されて軟禁、携帯・パソコンの類が取り上げられ、小出しに翻訳を強要される。
 それでも何故か内容が小出しにネットにアップされて小説の身代金(その意味で邦題は適切)が要求され、最終的に8000万ドルにまで吊り上げられてしまう。
 出版社社長ランベール・ウィルソンは、屋敷内にいるはずの犯人探しに躍起になり、拳銃まで見せる始末。翻訳者連中も互いに疑心暗鬼になり、時に不和状態に陥る。

これが前半のお話で、後半への折り返し点において犯人が明らかになる。しかるに、どう小説を漏洩したかというトピックは実はギミックであり、ミスリードなのである。
 後半に入ってもそのミスリードで引っ張っていくが、そこで紹介される犯人による漏洩に関する種明かしも実は事実ではない。犯人の目的は何かの不正を最後に明かすのが眼目なのだが、その土台となる事件が最後の最後になって明らかにされるのだから、後出しじゃんけんみたいなもので、映像の嘘よりはずっとましとは言え、僕はこういうインチキは好かない。

どんでん返しのあるミステリー・サスペンスで、しかもまだまだ新しい作品である為、エチケットとして余り細かいことが言えず、好悪で誤魔化すしかないのは残念。
 ちゃちな事件というコメントを読んだが、たかだが出版の為に人が死んだりするのはちゃちな事件ではない。小さな目的の為に起きるには大きすぎる犠牲である。

好悪と言えば、シリーズものでもないのにサブタイトルを付けるのは感心しない。題名に内容を求める日本人の文化的民度はまだまだ高いとは言えない。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

2021年11月22日 20:15
たしかに場面の見せ方を時系列をシャッフルして語ることで「あ、そうだったの?」みたいになる語り方でしたね。こういうのは小説より映画だからこそ巧妙にできるのかもしれない。でも、ミステリーとしての謎解きという感じがそがれますよね。
 何も知らないで翻訳に来たデンマークの翻訳家の女性が、えらいとばっちりで死に追い込まれていて、なんだかなあというのもありました。彼女のエピソードは人間ドラマとしてはリアリティがありましたが。
オカピー
2021年11月22日 21:16
nesskoさん、こんにちは。

>ミステリーとしての謎解きという感じがそがれますよね。

時系列をシャッフルすると、どんなちゃちなお話でもそれなりに面白く見られ、前世紀末から21世紀最初の10ねんくらいまで重宝がられましたが、僕はこの手の手法は余り好きではないですね。
 また、仰るようにミステリーとして見ていたので、謎解きが眼目ではなかったと解ってがっかり、でした。
 nesskoさんは好意的にご覧になったようですが、僕はいま一つでした。