映画評「ボイス・オブ・ムーン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1989年イタリア=フランス合作映画 監督フェデリコ・フェリーニ
ネタバレあり

フェデリコ・フェリーニ監督の「」(1954年)以降の作品は全部映画館で観ている。事情があって、遺作となった本作のみ衛星放送で観るしかなかった。その時録画したビデオはブルーレイに移してライブラリーとして依然持っているが、プライムビデオで無償で観られると知って早速再鑑賞へ。何しろ画質が全然違うのだから、プライムビデオをいつ止めるか分からない以上、この手は即座に対応するのだ。

月の声を聞こうとする純粋無垢な詩人(ロベルト・ベニーニ)が声を求めてお祭り騒ぎに浮かれる町を彷徨し、その化身のような美人(ナディア・オッタヴィアーニ)など色々な人物と交錯し、或いは様々な場所に辿り着く。その中には三人兄弟が捕まえた月のある現場もあるが、声を聞くのは、人のいない畑においてである。

月は英単語lunatic=狂気の、狂人=の語源となったように、西洋では狂気を生む存在とも考えられているわけで、本作ではそれがモチーフになっている。冒頭出て来る音楽家も、元市長(パオラ・ヴィラッジョ)も精神の錯乱を疑われているし、論理的にものを考えることのなさそうな詩人はその存在自体が純粋という概念を具現化したような感じで、全編狂騒的な幻想と言っても良いくらいのお話である。

次から次へ場面が変わっていくのはイタリア伝統の即興劇のムードを漂わす。文学ファンでもある僕にはその感覚が一番楽しい要素。
 反面、若者の集まる踊り場でマイケル・ジャクソンの曲"The Way You Make Me Feel" から突然「美しき青きドナウ」に変わって元市長が踊り出す箇所など卓越したムード醸成が幾つかあるものの、一般的な面白さがあるかと言えば相当疑問である。本作を楽しむには様々な知識や長い映画経験、生まれついての映画的感性など幾つかの条件が揃わないと厳しい。知識と経験では人後に落ちないと自負する僕でも時々眠くなった。感性に自信のある方、ご挑戦なされ。

因みに、ナディア・オッタヴィアーニにはフェリーニの愛妻ジュリエッタ・マシーナにどこか似た面影があるし、「道」で彼女と共演したアンソニー・クインを思い出させる風貌もある。元市長役のパオロ・ヴィラッジョはフェリーニご本人の雰囲気があるような気がしてくる。

といった次第で、大作家の遺作ということも手伝って、郷愁めいたものを感じながら見終えた。

ピンク・フロイドの傑作アルバム「狂気」The Dark Side of the Moon を背景音楽に使ったら、もっと☆が増えたかも。

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