映画評「過去を逃れて」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1947年アメリカ映画 監督ジャック・ターナー
ネタバレあり

日本では劇場未公開に終った有名なフィルム・ノワールで、監督はジャック・ターナーことジャック・トゥルヌール。
 ターナーは代表作たる本作や「キャット・ピープル」(1942年)が日本ではお蔵入り(TV放映とビデオ化あり)した、ある意味不遇の監督だが、輸入映画は決して少なくない。僕が見たのはつまらない映画ばかりですがね。

カリフォルニアの田舎町ブリッジポートでガソリン・スタンドを営むロバート・ミッチャムの前に、ニューヨークの私立探偵時代に関わった暗黒街系実業家カーク・ダグラスの片腕ポール・ヴァレンタインが現れ、ボスのいるタホ(湖)に来いと告げる。彼はそこへ連れて行ってくれる(行きは彼自身が運転)現在の恋人ヴァージニア・ヒューストンに、自分が逃げる羽目になった推移を告白する。
 5年以上前のこと、ダグラスを撃って40000ドルを持ち逃げした彼の女ジェーン・グリアを探すよう依頼された彼は、アカプルコで彼女を発見するが、その魅力に参って二人で逃避行を決行、サンフランシスコで暮らすが、相棒スティーヴ・ブロディに発見される。女は談判中にブロディを撃って40000ドルと記載された通帳を残して消える。
 話が終わって現在に戻り、タホに着いた彼はダグラスのそばにジェーンがいるのに呆れるが、脱税の証拠となる書類を彼の共同経営者から取り返す仕事を依頼される。

ここから映画は暫しかなりややこしくなる。というのも、彼が交渉する弁護士の秘書ロンダ・フレミングがジェーン・グリアにタイプが近かったり、ダグラスもジェーンも夫々別々に彼を罠に嵌めようとしているらしく見えたりするからで、余程集中しないと話が把握できない。しかし、これを主人公の知力と行動力を見せる為のギミックと考えれば、100%理解できなくても大勢に影響がないような気がする。

ミッチャムの雇用人の聾唖少年が絡んで、ヴァレンタインがタホ湖で墜落死する前後の脈絡が、幾つかシーンが省かれているかと想像したくなるくらい、解りにくい。見直せば解るかもしれないが、現状ではそのままに留めたい。いずれにしても、脚本に若干の問題があると思われる(ビデオで出回っていた不完全版はもっと解りにくかったらしい、当然ではあります)。

ミッチャムの発言を信じたダグラスに追い詰められたジェーンは彼を殺し、ブロディ殺しの犯人にさせられていたミッチャムは一緒に逃亡するふりをして彼女を警察に引き渡そうとする。彼女が怒って運転中の彼を撃つと警官が彼女を撃ち、車は大破、二人共死ぬ。彼の葬儀を終え、ヴァージニアは聾唖少年に彼が女と一緒に逃げようとしたのか尋ねると、少年は首を縦に振る。

この幕切れは、少年がGSの看板に記された主人公の名前に手を振るところが味となって実に気が利いている。個人的にはここが一番気に入った。少年がヴァージニアの幸福を考えた生前のミッチャムの思いを忖度し実行しているとこの動作で判るからである。

カメラワークを楽しむにはターナーの演出力は少し足りないが、ムード醸成は十分以上。基本的には俳優を楽しむ作品で、ミッチャムとジェーン・グリアが断然魅力的。

悪女よければ全て良し、という映画界の諺があるとかないとか。

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この記事へのコメント

モカ
2020年12月29日 15:07
こんにちは。

>脚本に若干の問題があると思われる

R・ミッチャム目当てで観ましたが「え?」「はっ?」「ふーむ」
の連続で何のこっちゃら、小骨の多い魚を食べたような気分とでもいいましょうか・・・ R・ミッチャムがボケみたいに見えだしたんですけれどこれはそういう狙いだったんでしょうか?
悪女に翻弄された男? 確かに女優さん美人でした。
ハードボイルドを期待すると外れますかね? まだ小骨が喉に引っかかってる感満載で終わってしまいました。
モカ的には脚本にかなり問題ありとみました。
オカピー
2020年12月29日 20:39
モカさん、こんにちは。

>R・ミッチャムがボケみたいに見えだしたんですけれど

回想の部分の彼は女に甘い男でしたが、これに懲りた現在の彼は、書類を持たずに預けるなど、なかなか知的な行動をしたように僕には思えました。最後も死を覚悟していたかもしれないという気が・・・

しかし、ハードボイルドものはややこしいのが通例とは言え、あの墜落死前後のシークエンスが理解できないのを筆頭に解りにくいところがあり、やたらに高い世評ほどは買えません。同時代のジョン・ヒューストンのようなパンチ力やカメラの面白さにも欠けます。

>ハードボイルドを期待すると外れますかね?

女に甘くややこしいのがハードボイルドと思っている人には、大丈夫かも(笑)

>小骨の多い魚を食べたような気分

これは上手い表現ですねえ。いつかどこかで使わせてもらいますよ。
浅野佑都
2020年12月29日 21:07
 プロフェッサーとモカさんには申し訳ないですが、鱧とかイワシのような”小骨の多い小魚”大好きなもので‥
僕的(笑)には満点であります。

ハードボイルドはお話の筋よりもムードですからね。確かに、モノローグから始まる典型的な序盤はダルいですが(笑)
主人公ととびっきりのヒロインの出逢いから主導権争いの中盤、なだれ込むようなラスト。
アメリカンフィルムノワールはこれでなくっちゃ、と(笑)

職場の若い人に勧めたら、「村上春樹の初期小説みたいい」と宣うので・・単にチャンドラーに代表される小説大好きなあちらが真似しただけですけどね。

美貌と嘘と知恵を駆使して、どんな状況でも独善的に生きるジェーンの峰不二子っぷりと、ルパン三世のように、わかっていながら嘘に飛び込もうとするミッチャム・・そんな狂った2人の運命に翻弄される、影は薄いけれど真っ当なもう1人の女性 (ヴァージニア・ヒューストン)の存在が、本作の「悲壮感」を際立たせていますね。

あ、ジェーン・グリアって斜めから見ると広瀬すずに似ていますなあ(笑)
モカ
2020年12月29日 22:32
こんばんは。

オカピー先生とモカを同列にされたら先生に失礼でございます。
先生は理解された上での評価ですけれど、私は自慢じゃないけどストーリー展開も理解できておりませんです。
鱧(これは骨切りしないと食べられませんけど)もイワシもOKですけど、私的にはこれは飛び魚級でしたね。
小骨をとるのが面倒くさくて結局何を食べたのやらさっぱり分からんという・・・すり身にしてくれ~(笑)
ハードボイルドが合わないのかな・・・熱湯に入れて7分が好みですし。
そういえばチャンドラーなんかも何が面白いのか謎でしたね。
「深夜の告白」とかは面白かったですけど・・・まあ、あれがダメなら1から出直してこい、ですよね!

 
オカピー
2020年12月30日 18:18
浅野佑都さん、こんにちは。

>ハードボイルドはお話の筋よりもムードですからね。

それは解っておりますが、当方、左脳人間らしく、理屈で追求してしまうところがありますデス。逆に、幕切れなど論理が綺麗に繋がるところでは、グッと感動してしまいます。基本は情に脆い人間ですから(笑)
 ムードと言えば、ミッチャムがおよそ30年後に出演した「さらば愛しき女よ」のムードは素晴らしかったですねえ。

>ジェーンの峰不二子っぷりと、ルパン三世のように、わかっていながら嘘に飛び込もうとするミッチャム

なるほどルパン三世の構図でありましたか。言われて見れば、そうかもしれませんねえ。

その意味では、

>もう1人の女性 (ヴァージニア・ヒューストン)

は、アルセール・ルパンのクラリスとルパン三世のクラリスの中間のような存在に思われてきます。
オカピー
2020年12月30日 18:32
モカさん、こんにちは。

>そういえばチャンドラーなんかも何が面白いのか謎でしたね。

ウェットな欧州文学を愛して来た僕も、ハードボイルドは本来僕のフィールドではないという感じがなくもないです。ヘミングウェイも「武器よさらば」以外はどこかピンと来ない感じ。ドライすぎて。
 大人になってからは、割合近づいてはいるような気がしますが、まだ到達していない感じ。

>「深夜の告白」とかは面白かったですけど

「郵便配達は(いつも)二度ベルを鳴らす」にしても、ジェームズ・M・ケインは登場人物が少なくて解りやすいし、内容が直球ですから、割合万人向けでしょう。ハードボイルドなのは文体だけ(?)。