映画評「とらんぷ譚」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1936年フランス映画 監督サシャ・ギトリ
ネタバレあり

まだ大統領再選を諦めていないドナルド・トランプの伝記映画ではありません。彼が大統領でなくなったら、伝記映画かかなり批判的なドキュメンタリーが作られるだろうと思っているが、さすがにまだその段階ではない。

25年以上前WOWOWが放映した時に初めて観た。昔のWOWOWは真の映画ファンを意識をしていたと思う。今は極端にミーハーに傾いてしまった。今回はその時に録画したものを四半世紀ぶりに観たわけだが、映画の内容もさることながら、WOWOWへのネガティヴな思いが湧いてきてしまった(ついでに言うと古い映画の放映は多いが、NHKも決して褒められない)。

本作は、フランスの劇作家で、映画もかなり撮ったサシャ・ギトリの傑作。多分ヌーヴェル・ヴァーグの連中に相当影響を与えているような気がする。
 例えば、冒頭スタッフとキャストについて、その名前を文字で出す代わりに、主人公に扮するギトリのナレーションで紹介する。これはフランソワ・トリュフォーが「華氏451」(1966年)で似たようなことをやった(トリュフォーは焚書坑儒の内容故にそれをやったのであるが、本作の試みが念頭にあったにちがいない)。

ギトリ(彼自身でもあるが、キャラクターを演じるギトリでもある)が少年時代からの経験を綴り、あるいは誰かに語る。即ち、
 田舎の大家族の一員だった頃お金を掠めて罰として(毒キノコの入った)食事を戴けなかった為にただ一人生き残り、彼の遺産狙いの養父母の家を飛び出て、レストランやホテルのボーイになって女性経験を踏み、戦争から帰って女泥棒ロジーヌ・ドレアンの詐欺的宝石泥棒に加担した後モナコのルーレット担当になって謎の美人ジャクリーヌ・ドリュバックとこれまた詐欺的な協力関係を結んで夫婦になるが、最終的には大失敗に終わる。
 一代記をほぼ終えた後の現在、少年時代筆卸しのお世話になった伯爵夫人マルグリート・モレノが再び現れて “おいしい話” を持ち掛けるが、ここで彼は刑事になった現在の立場を打ち明ける。

構成はクラシックな悪漢小説に倣っていて、その意味でジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」(1965年)のようなムードもある。ギトリ以外の台詞は全くなく、ギトリが弁士風に喋るところもあり、洒落た映画の多かった当時のフランス映画においても群を抜いて洒脱。
 いずれにしても、ヌーヴェル・ヴァーグを知った現在の人々がこの戦前の映画を観ても少し変わった映画くらいにしか思わないかもしれないが、同時代にこれを観た人は相当驚いたことだろう。

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