映画評「屍人荘の殺人」

☆☆(4点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・木村ひさし
ネタバレあり

現在の邦画のジャンル映画でほぼ無条件に観るのは、時代劇とミステリーくらいである。ミステリーは、小説や(一時ほどでないにしても)TVで大量に触れることができるのに、映画では本当に少ない。最近は多少増えつつあるが、それでもまだ少ない。従って、本作をば、今村昌平ならぬ今村昌弘という推理小説家のミステリーを映画化した作品ということで期待して観始める。

神戸大学ならぬ神紅大学のミステリー愛好会会長(中村倫也)の名前が明智恭介というのた一番の傑作。名探偵明智小五郎と神津恭介の上下を合わせたものだからである。彼がホームズと言われる(寧ろ自称する)のに対し、唯一の会員葉村譲(神木隆之介)がワトソンと呼ばれ(無論自称)、名コンビならぬ迷コンビぶりを発揮している。
 今日も冴えない結果の二人の前に可愛らしい女子学生剣崎比留子(浜辺美波)が現れ、去年一人の女子学生会員が消え脅迫状も届いているロックフェス愛好会の合宿に参加せよと半ば強引に話をもちかける。彼女は実は二人より遥かに推理力のある探偵である。
 かくして共に参加した三人は宿泊所となる紫湛荘の豪勢ぶりに目を見張る。夜になって始まった会場で人が人を噛む伝染病が発生し、会員たちは明智以外は命からがらペンションに逃れるが、中に既に感染者がい、しかもゾンビと仕業とは思われない殺人も起き、剣崎と葉村の見事な推理が展開される。

主人公たちが後に屍人荘となる紫湛荘(洒落であります)の中に入るまではアガサ・クリスティばりのシチュエーションで多少期待させるが、フェス会場でゾンビ騒ぎが起きた途端ミステリー・ファンはがっかりするのである。僕は相手の脅威が大きすぎて純粋なサスペンスになりえないゾンビものが嫌いだから、なおさら。
 唯一の利点は、これによりペンションが雪に閉ざされたオリエント急行よろしく突然クローズド・サークル化すること。これがあるので一応ミステリーの形は残されたと多少機嫌を直す。一種の密室殺人ものというオーソドックスな謎が提示されるのもクラシックで良いが、梗概紹介中に ”見事” とは述べたものの、二人の推理の一々はそれほど感心するほどのものではない。

ミステリーとゾンビもののハイブリッドが一応のアイデアということになる。しかるに、犯人が人間かゾンビかその共同作業かという新機軸ですら面白味にならず、僕の感覚ではゾンビを加えたことによるマイナスの方が遥かに大きい。計画的な殺人と一種の事故であるゾンビ死が同居して心地良いわけがない。コメディーにしたのはそのバッティングを回避する手段ではなかったかと思う。

ゾンビではなくゾンビ化に似た、つまり感染者を敢えて殺す必要のない伝染病に変え、謀殺以外の殺人が出て来ない真面目バージョンが観てみたい。

伝染病と感染症とは元々違っていたが現在では専門家も殆ど区別していないらしい。例えば、コロナも一昔前なら伝染病。伝染病と言うといかにもおどろおどろしいので、語感がそこはかとなく柔らかな感染症に無意識に変わってきたのではないか。

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