映画評「旅のおわり世界のはじまり」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年日本=ウズベキスタン=カタール合作映画 監督・黒沢清
ネタバレあり

心理ホラーを主たるフィールドとする黒沢清監督は時々一般映画を作る。この作品など、WOWOWのワールドシネマコレクションに出しても良いくらい一般的ドラマである。

ミュージカル歌手志望のタレント前田敦子が、“世界ふしぎ発見!” のミステリーハンターのような仕事の為、若いディレクター染谷将太、ベテラン・カメラマン加瀬亮、AD柄本時生、現地のコーディネーター兼通訳アディズ・ラジャボフと共に、ウズベキスタンの湖を訪れる。幻の魚を探すという名目である。しかし、女性が乗ると発見できないなど猟師から文句を言われて一旦退散した後、遊園地の過激な乗り物に乗ったり、飼われていたヤギを解放したり、カメラを持たされて市場レポートをやってみたりする。
 調子に乗って猫を追ううちに撮影禁止地区に入り逃げ回った挙句に警察のお世話になり、そこで東京の石油コンビナートの火事を知って結婚まで考えている消防士の恋人の安否を心配する。
 東京の事故取材応援の為にディレクターとADが帰国した後カメラマンと彼女は、幻の魚の代わりに幻の哺乳類を発見したと言う老人に案内させて山に登る。幻の獣かどうかはともかく、彼女は解放したヤギ(とは断定もできないのだが)を発見すると、歌手となる夢を追って閉塞していた気持ちを解放、オーディション曲「愛の讃歌」を歌う。

一言にまとめれば、どなたかも仰っていたように、ヒロインの心の旅路を綴る作品である。
 彼女は、自分の目標と違う仕事にもやもや感を抱き、仕事は一生懸命こなす一方で、特に現地の人に対しては相当不愛想。彼らは概して頑固で欲も強いが優しい人々で(ウズベキスタンがソ連の構成国であった頃、大学のロシア語講師N先生は“私の顔はウズベク人に似ていると言われる”と仰っていたっけ)、警察の紳士ぶりには感銘するほどである。かくして、ヒロインが市井の人々に交わり、観光映画と一味違う紀行ものとして楽しめるところが多い。

最後の「サウンド・オブ・ミュージック」のような場面は少しぎこちない感じがするが、前田敦子の歌は存外悪くない。歌はともかく、二十代後半くらいの女性には共感できる要素がある内容ではないだろうか?

日本人には“歌のうまさ”に言及する人が海外より多い気がするが、歌のうまさという定義と判断は結構難しいもので、そう安易に言えるものではない。うまい歌手、歌唱力のある歌手、偉大な歌手は実は違う。そもそも定義自体が人によって違うのだから、異論が出るのは当たり前。少し前にローリング・ストーン誌“ポピュラー音楽史上最も偉大な歌手”選出で5位に選ばれた(ロック系では最上位、3位のプレスリーはロックンロール時代の貢献への評価であろう)ジョン・レノンに関し、大昔兄はスクールメイツによる「ガール」の平凡なカバーを聞いて“本人より上手い”と寝言を言ったのを思い出す。その癖そこそこ歌えるアイドルを捕まえては“聞くに堪えない”などと言う。彼は単にきちんとした、聴きやすいバイブレーションの有無によって判断していたのだろう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

浅野佑都
2020年09月13日 22:06
前田敦子は、若手では演技力が確かだと思います‥。彼女の演技を酷評する人は、天地真理を色眼鏡で見て歌が下手だと断じていた、昭和の司会者や評論家と同じでしょう・・。


歌唱力というのは、まず声の良さ(これも色々ですが)というのもあるでしょうが、基本的には、表現力と説得力だろうと思いますね・・。

僕は、日本の歌手でいえば、男性では布施明や北島三郎、女性だと森昌子や岩崎宏美は上手いなと思いますが、五木ひろしが上手いと思ったことは一度もない・・美空ひばりは、確かに上手いですが、中低音と比べ、高音域はやや弱いように思います(それでも、並みの歌手より10倍は上手いでしょうが‥)

最近の、日本の若手で歌が上手いとされる、高音域の得意な男性歌手たちもあまりピンときませんね・・。
歌い方の好き嫌い以前に、表現力に魅力を感じないからでしょうね・・。

ジョン・レノンの歌唱力については、レコード時代に聴き込んで、ユーチューブでも確認できるようになったので断言できますが、ジョンは上手いですよ。
基本、あまりビブラートかけずに真っ直ぐに歌うから、ボケっと聴いてると上手く聴こえないんでしょうね・・。
ファストフードをしょっちゅう食べてると、味覚がおかしくなるのと一緒です。

歌は、高音よりも低音をしっかり出すほうが難しいのですが、職場では、ちょっと歌の上手い浅野さんで通ってる僕にも「You've got to hide your love away」など、ジョンのようにうまくは歌えません(笑)
オアシスのカヴァーなんか、下手くそで聴けたものじゃない・・。

ポールと比較するなら高音シャウトや様々な声色を使い分けるようなテクニックではポールの方が上でしょうね。
しかし、僕は、ジョンのヴォーカルは、最晩年まで進化していたと思いますね・・。
"Beautiful Boys"のようなどこまでも優しく包み込むような歌い方です。あれはビートルズ時代はもちろんのこと、70年代のジョンでも出来なかったでしょう。
オカピー
2020年09月14日 18:42
浅野佑都さん、こんにちは。

>歌唱力というのは、まず声の良さ(これも色々ですが)というのもある
>でしょうが、基本的には、表現力と説得力だろうと思いますね・・。

その通りと思います。歌唱力がある人は、歌が上手いと言っても間違いではないでしょうが、(技術的に)上手い人が表現力や説得力があるとは限らない。

ジョン・レノンは声が素晴らしく、自分で作った歌の説得力では無比です。昔のカバー曲も実に巧くこなしていて(ビートルズ時代、後年の「ロックンロール」でのカバーは重くて余り良くない)、僕など聴くたびに陶然としてしまう。

>基本、あまりビブラートかけずに真っ直ぐに歌うから、
>ボケっと聴いてると上手く聴こえないんでしょうね・・。

そういうことだと思います。歌謡曲はビブラート、バイブレーションがないとぶっきらぼうに聞こえて良くないでしょうが、ロック系はそうではない。その辺を理解しないと。
 ポールにしても同様で、彼は67年頃から大げさではない程度のバイブレーションを意識し始めたように聞こえます。初期でも、セッションでふざけて声楽歌手をやスタンダート歌手を真似た歌い方をすると、それらしく聞ええて感心しきり。やろうと思えばやれなんだなと思います。
 ロックの歌手の中には、バイブレーションが照れてやりにくいというのもあったのではないでしょうか?

>ちょっと歌の上手い浅野さんで通ってる僕

それは初耳^^。
 僕も下手の方ではなく、十数年前会社の近くのカラオケ・スナックで、同僚に頼まれて十数曲ビートルズ・ナンバーを歌いましたが、外国人には聞かせられるレベルとは思えず。「ロシアより愛をこめて」と「マイ・ウェイ」は“Good job!"とアメリカの社長さんから褒められた経験が一応ありますが。

>オアシスのカヴァーなんか、下手くそで聴けたものじゃない・・。

ビートルズ特にジョン・レノンのフォロワーなのは知っていましたが、この曲のカバーは知らなかったなあ。
 オアシス・ファンは絶賛してますが、ファンとしての贔屓目ではなく、ジョンとは雲泥の差ですね。

>ポールと比較するなら高音シャウトや様々な声色を使い分けるような
>テクニックではポールの方が上でしょうね。

一四日目まで来たところですっかりYouTubeから消えてしまったGet Back Sessionでのポールの変幻自在ぶりは驚異的です。公式録音からだけでは解らない魅力があって面白いですよ。

>"Beautiful Boys"のようなどこまでも優しく包み込むような歌い方です。

”Woman”もそうですが、素晴らしいですね。
 あのレコード自体が傑作で、小野洋子の一曲を別にすると大好きな曲ばかり。その小野洋子にしても、60年代から70年代の前衛音楽ではなく、あの曲以外はなかなか良い曲を揃えたと思います。あれだけの傑作を残したところでの死は、僕としても無念。
浅野佑都
2020年09月14日 20:49
「ダブル・ファンタジー」が出た当時、伝手を駆使して購入したばかりのSONYウォークマンで聴くときは、二曲目だけいつも飛ばして聴いてましたよ(笑)


>小野洋子にしても、60年代から70年代の前衛音楽ではなく、あの曲以外はなかなか良い曲を揃えたと思います。


そうなんです!あの曲以外は(笑)・・・。すこぶる良い。
日本人は、あのアルバムで、ヨーコと和解できた(笑)と、僕は思います!

2020年09月14日 20:54
 今年で生誕80年になりますね・・。

いろいろあっても、7歳年下の世界でもっとも有名な音楽家を、彼女はしていたのでしょう・・。
浅野佑都
2020年09月14日 20:58
 失礼、名前と「愛して」を書き忘れましたよ(笑)
だいたい、おわかりでしょうが・・。
オカピー
2020年09月15日 18:24
浅野佑都さん、こんにちは。

>二曲目だけいつも飛ばして聴いてましたよ(笑)

極の良し悪しは措いといて、あの内容では大きな音で聴けないので、ステレオで聞く時は必ず飛ばします(笑)

>日本人は、あのアルバムで、ヨーコと和解できた(笑)と、僕は思います!

その表現は素敵ですねえ。
 一時の不和を乗り越え、現在の夫婦和合を見せつけるかのような最後の曲Hard Times Are Over は、当時は良い曲と思った程度でしたが、(聞き取りやすい歌詞ということもあって)今は涙なしに聴けません。