映画評「ワイルドライフ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督ポール・ダノ
ネタバレあり

アメリカの作家リチャード・フォードの小説(恐らく未訳)を、俳優のポール・ダノが映画化した作品。初演出らしい。

1960年。北部に引っ越してきた夫婦と14歳の息子から成る家族のお話で、ゴルフ・クラブに勤めていた夫君ジェイク・ギレンホールが大した理由もなく首になる。雇用者は再雇用を提案してくるが、プライドの高い彼は断り、遂には森林地帯の消火活動をする仕事に就くと言って家を空けてしまう。
 夫君に頼りがちだった細君キャリー・マリガンは、教師の経験を生かしてプールの指導員になるが、そのメンバーで町の実業家ビル・キャンプと親しくなり、家に招く。嘘か真か(後のエピソードを見ると嘘らしい)彼の会社に雇ってもらうらしいが、息子を連れてお呼ばれにも応じたりする。
 初雪を見る頃約束通りギレンホールが帰って来る。しかし、キャリーがキャンプと仲良くしていたと知って憤然、男の家に火を放つ。幸い玄関を焼いただけで済み、相手とも和解するが、たまらずキャリーは家を出、遠方で旧職の教師に就く。
 両親の間で揺れ動いていた息子エド・オクセンボールドは、学校の休暇を利用して様子を見に来た母親と父親をバイト先の写真館に連れて行き、家族三人の写真を撮る。

完全なハッピー・エンドではないが、かなりのところまで崩壊した家族を、全く落ち着きを失くした両親を傍目に成長するしかなかった息子が半ば再生させる、という話と見た。
 この子供はたまたま出来が良かったから良いが、これが普通かそれ以下の子供であれば暴力沙汰や犯罪を起こしかねないでござる。しかし、映画や小説がそういう若者ばかり扱ってきたという側面があり、案外このような良い少年も少なくないのかもしれない、と思わせるところが本作の収穫と言いたくなる。

ダノのタッチは、やや突き放した感じの、インディでは典型的なショットや場面のつなぎ方をしている。冷たい印象を伴いつつ、深い観照性を漂わすのが良い。

ポール・マッカートニーがソロの延長的にウィングス名義で作った「ワイルド・ライフ」というアルバムがある。地味で評判も今一つだったが、案外面白味のある作品。あの作品の「ワイルド・ライフ」は野生生物の意味だが、こちらは?

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この記事へのコメント

モカ
2021年09月11日 14:39
こんにちは。
こちらは昨夜観ましたがなかなか良いと思いました。
俳優陣も脚本もいいんじゃないですか? ダノのパートナーのゾーイカザンが脚本に参加していますね。ロシアレストランがどうとか?という映画で初めて彼女の存在を知りましたがエリアカザンの孫ですって。
原作が良いんでしょうね。アメリカではピューリッツァ賞もとっている有名な作家らしいですが知りませんでした… また読みたい本が増えて困ったことです。
原作は多分「spring rock」で既訳だと思います。

物語の設定時が1960年、といのが重要ポイントですか…
あの激動の60年代の入り口ですね。それまでの親世代の価値観と若者の価値観が一気にかけ離れていく時代の幕開けで。
こういう家族像は割とよくアメリカの小説では描かれていますから特別特殊な家族ではないんでしょうね。古いアメリカ男子の象徴のように息子にフットボールの選手になる夢を託したような父親に対して、フットボールを辞めて写真館でアルバイトを始める息子…良いですね! そこでの何組かの家族写真が効いてました。嵐の前の静けさのような一見平和な50年代のアメリカのファミリー写真ですが、前途多難な予感がします。
60年に14歳という事はベトナム戦争に引っ掛かる可能性は大ですが。
モカ
2021年09月11日 18:54
こんばんは。訂正です。
原作は未だ翻訳されていませんでしたね。残念なようなホッとしたような…
短編集があるようなので短編好きとしては気になりますが。
オカピー
2021年09月11日 22:20
モカさん、こんにちは。

>エリアカザンの孫ですって。

息子と言うか、ゾーイの父親も映画を作っていましたよね。
才能はこうして継がれるか。

>アメリカではピューリッツァ賞もとっている有名な作家らしいです

リチャード・フォードの作品は、モカさんが挙げた短編集だけ翻訳されているみたいです。それだと日本での知名度は低くなりますね。

>物語の設定時が1960年、といのが重要ポイントですか…

モカさんもご指摘されているように、続編でもあればベトナム戦争が絡んできそうです。ビートルズを筆頭にしたブリティッシュ・インヴェイジョンあり、公民権運動あり、ケネディの暗殺あり、大変な時代でしたね。
我々が生きている今もテロ(国際的テロは落ち着き気味)あり、コロナありで、なかなか大変ですけど。

そうそう、目の方はそれほど問題ではないそうですよ!
後は来年の自動車免許が更新できるかどうか。病院での検査では眼鏡補正で右目1.0、左目1.2ですが、半分から下は殆ど勘ですから、本当に大丈夫かいなといつも思いつつ、無事パスしています。群馬では車がないと生活できない。図書館にも行けない。
モカ
2021年09月13日 00:20
こんばんは。
大事にならずに良かったですね。私は先月末が免許証更新の期限でしたが思い切って更新しませんでした。昨日でしたか、東京でタクシーが歩道に突っ込む事故がありましたね。私も血管に欠陥がありそうな体質なので他人事ではありません。
幸い徒歩10分以内で日常生活のほぼ全てを賄えるので運動の為にも歩くようにしています。

 60年代と言えば、先月「アメイジンググレイス アレサフランクリン」と「サマーオブソウル」を観ました。
アレサは特に好きでも嫌いでもないのですが観て良かったです。やっぱアレサはゴスペルですなぁ! トランス状態の巫女さんみたいでしたよ。
これは正確には70年代初め頃のライブですが。シドニーポラックが撮影監督で公開するはずが、カチンコを入れていなかったので音声と映像が合わなくて半世紀も放置されていたとか…そうそう、客席にミックジャガーとチャーリーワッツがいて、キースなら分かるけどチャーリーワッツがねえ〜なんて言ってたらチャーリーの訃報が飛び込んで来て…

私としては「サマーオブソウル」のほうがもう感涙ものでした。特にスライとニーナシモンが! 書き出したらキリがないので詳細はHPを参照してくださいませ。
オカピー
2021年09月13日 21:56
モカさん、こんにちは。

>幸い徒歩10分以内で日常生活のほぼ全てを賄える

車に乗る趣味はないけれど、群馬それも僕のような片田舎に住んでいたら車は不可欠。バスも電車もないと言って良い状態なのだから。
 この間も病院で「ここは、睡眠しながら出来る胃カメラはないんですが」と訊いたら、「一時やったのだけど皆、車で来るので検査後の事故が頻発、それで止めたんだよ」と先生が仰っていました。

>「アメイジンググレイス アレサフランクリン」と「サマーオブソウル」

まだ封切(古い言い方!)されたばかりのようですね(特に後者)。
いつか観てみたい。