映画評「十字砲火」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1947年アメリカ映画 監督エドワード・ドミトリク
ネタバレあり

1970年代後半以降、故水野靖郎氏が主宰した配給会社IPが暫く頑張って、戦後GHQの方針等で日本でお蔵入りになっていた40年代の映画を色々と紹介してくれた。アメリカの不都合を見せる本作は、エリア・カザンの「紳士協定」(1947年)と並ぶ、その代表的な一本である。「紳士協定」は映画館で観たが、こちらは多分30年くらい前にTVで観たのが最初だと思う。

終戦直後の米国。ある部屋で中年紳士が殺される。刑事ロバート・ヤングは、事件現場の部屋にやって来た兵ロバート・ライアンの証言で、その部屋には被害者の外ライアンを含む帰還兵三名がい、そのうちの一名ジョージ・クーパーが行方不明と知る。
 失踪者の上官であるロバート・ミッチャムはクーパーがそんなことが出来る男ではないと言い、後で探し出した本人の言うには、帰郷を待つ妻との関係に悩んで意識朦朧としている時間が多く、酒場の女グロリア・グレアムと過ごしていたことが判って来る。
 最初は限りなく彼を怪しんでいた刑事も、殺害理由が見当たらないことで、逆に犯人の目星をつけ、その男の弟分を使って罠に嵌める。

という外枠はフィルム・ノワール的だが、このお話から浮かび上がるのは、被害者がユダヤ人であること、加害者がユダヤ人嫌いであることを土台にした、アメリカに巣食う根深い差別の問題である。

本作が訴えるのは一つユダヤ人問題のみではなく、人種・民族・宗教・出身地等を理由に様々な差別がある現状と、平凡な人々がそれを持っていることの恐怖である。
 現在アメリカで黒人差別によるデモが物凄い騒ぎになっているので、頗る良いタイミングだったと思う。しかるに、騒動そのものは、有名人の像が撤去されるわ、建築物の名前が変えられるわ、特定の映画が上映禁止になるわ、多く文化破壊で、この映画のような静かに訴えることができないものだろうか。差別に同情的でもこの騒動には辟易する人も出て来よう。大分前からこうしたポリ・コレ的行動はあったが、今回一般的にも知られるようになったというのが実際。

映画の方は、一切の無駄を排した即実的な作りで、85分という短尺で実に効果的に主題を打ち出すのに成功した。J・ロイ・ハントの撮影の的確さを含めて、エドワード・ドミトリクは実に見事に捌いている。
 しかるに、ユダヤ人差別を扱い方がアメリカで問題になって、ドミトリクは彼自身の出自(ロシア出身)が引っかかり赤狩りに巻き込まれた。恐らくその為に彼は監督としての製作対象を変えざるを得ず、時々良い映画も作る大衆映画監督になった。アメリカにも色々な不都合な過去が多い。

映画批評家としての水野氏は僕の映画観に合わなかったが、映画愛好者としては非常に尊敬する。

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