映画評「ブレンダンとケルズの秘密」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年アイルランド=フランス=ベルギー合作映画 監督トム・ムーア
ネタバレあり

2作目の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」を観て、野趣と芸術性の高さに感心したアニメ映画監督トム・ムーアの映画デビュー作。

今回もまた極めてケルト伝説的内容で、9世紀のアイルランドが舞台。
 ケルズという砦町の精神的指導者たる院長(声:ブレンダン・グリースン)はヴァイキングの襲来を怖れて砦作りを第一と考え、将来の院長たる甥ブレンダン(声:エヴァン・マクガイア)に僧院から出ないよう命ずるが、少年は別の町から逃げて来た写本家の老人エイダン(声:ミック・ラリー)に影響され、本の製作に必要なインクの原料となる木の実を採集すべく砦の外にある森に出かけ、狼の化身である少女アシュリン(声:クリステン・ムーニー)の協力で、木の実を得る。
 そんなブレンダンを院長は面白く思わず、邪魔だてをするが、アシュリンの更なる協力で本作りの鍵となる特殊なクリスタルを得、本を書くことに没頭する。そんなところへ懸念通りにバイキングが来襲し、院長も重傷を負う。しかし、黄金を求めるバイキングは本の価値を知らず、本の力により退散させられる。
 エイダンと国中を彷徨して遂に本を完成させたブレンダンは帰郷、院長は自らの誤りを認める。

「ソング・オブ・ザ・シー」同様魅力的な音楽を筆頭にケルト色が濃厚で、9世紀頃アイルランドの先住民ケルト人がヴァイキング(デーン人・ノース人)に侵略された史実に則っているとは言え、前述作ほどケルトに関する知識がなくても解る内容になっている点が買い。
 ここで語られる本は、具体的に聖書というより概念としての本で、文明開化寸前の人間に本が知識という光を授ける寓話と思えば良いのだろう。

画面はイラスト若しくはグラフィック的で相当魅力的だが、人物は日本アニメの要素を取り込んだらしい「ソング・オブ・ザ・シー」のほうが可愛らしい。そのイラストの精細な感じには真鍋博のイラストを、或いはデフォルメされた人物や風景には子供の頃見た「悟空の大冒険」など手塚プロの作品を想起していたのである。

アニメでも、純然たる子供向けとは言いにくい。これを観て楽しめるようなお子様は将来畏るべし。

1970年代はベトナム戦争で、2000年代は9・11で映画は変ったが、きっと2020年代はコロナで変わる。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2020年05月04日 09:21
 これは素晴らしかったですね!
もともと、アイルランドは、ハリウッドのアメコミの下請けを介してアニメ産業は盛んでしたが、プロフェッサーの言われるように日本のジブリや、「腕白王子の大蛇退治」などの東映動画の強い影響を受けていると思いましたが、真鍋博のイラストに関しては、言われるまで気づきませんでしたが、彼の作品は欧米にも人気で、このアニメでも人物の目の感じなどに現れているかと・・。
小学4年時に、学校の図書館にあった「27世紀の発明王」という子供向けSF作品で初めて真鍋博のイラストに触れファンになり、大人になって彼の作品展を観にいきました。

>悟空の大冒険
「鉄腕アトム」の最終回の感動の余韻冷めやらぬ翌週に観たせいか、子供心にギャグが付いてゆけず気に入らなかった記憶が(笑)基本的には、「アトム」にも随所に出てきた手塚独特のギャグなんですけどね・・。
虫プロのスターシステム同様、この作品のアシュリンも、次作「ソング・オブ・ザ・シー 」にちょこっと登場しています。

ブレンダンとアシュリンの出会いは、古来からその地にあった土着の信仰や文化が、外部から入ってきたキリスト教と交わっていくアイルランドの歴史そのものでしょう・・。

アイルランドに最初に布教した聖パトリックは、土着の神や精霊の存在を認め、キリスト教の絶対神や教義をやみくもに押し付けなかったらしいですね。
この両者の共存が、アイルランドが持つストーリーテリングの才を生んだと思います・・。
この国が世界の文学史のなかで大きな地位を占めているのは、民族能力の一つである比類ない想像力によるものだと・・・。


緊急事態宣言が今月末まで延長されましたが、どうも僕はマドンナみたいに、コロナに罹って自然免疫を得ていた可能性があるんですよね‥機会があれば抗体検査を受けたいのですが。
この10日ばかり、熱はないのに咳が妙に出て、家で毎食作る料理もあまり美味しく感じられなのは花粉のせいだと思っていたのですが・・。
男やもめで、仕事はリモートが多く通勤の新幹線も最近はガラガラでしたから他人様(ひとさま)に伝染したはずはないと思います。
甥っ子の勉強見るときもスカイプでしたし・・。
感染者の4割は無症状という報告もあるので、想像以上にコロナに罹った人は多いかと‥。
待望されるワクチンの効果が素晴らしいものだといいのですが・・。
オカピー
2020年05月04日 22:19
浅野佑都さん、こんにちは。

>真鍋博のイラストに関しては、言われるまで気づきませんでしたが
>小学4年時に、学校の図書館にあった「27世紀の発明王」という
>子供向けSF作品で初めて真鍋博のイラストに触れファンになり、

僕は、中学の時に星新一に夢中になり、新潮文庫では必ず真鍋博が表紙と挿絵を飾っていた為、それが脳裏に焼き付いていました。

>人物の目の感じなどに現れているかと・・。

人物については考えませんでしたが、見比べるとそうかもしれませんね。

>大人になって彼の作品展を観にいきました。

僕にはそういう積極性がない。悪い癖です。

>「鉄腕アトム」の最終回の感動の余韻冷めやらぬ翌週に観たせいか

「鉄腕アトム」の最終回は泣きましたねえ。「悟空の大冒険」もそんなに近い時期でしたっけ。

>ブレンダンとアシュリンの出会いは、古来からその地にあった土着の信仰>や文化が、外部から入ってきたキリスト教と交わっていくアイルランド

そう考えると、更に解りやすいですね!

>この国が世界の文学史のなかで大きな地位を占めているのは、
>民族能力の一つである比類ない想像力によるものだと・・・。

アイルランドのケルト人は元来大陸の民族で、長い力関係の問題もあって、お隣の英国より、スペイン人に親近感を覚えている、とジェームズ・ジョイスの確か「ユリシーズ」の解説に書いてあったような気がします。
「ダブリン市民」ももう一度読み直した方が良いかもしれませんね。

>コロナに罹って自然免疫を得ていた可能性があるんですよ
>機会があれば抗体検査を受けたいのですが。

そうですか。著しい症状が出ないまま終わったのであれば良いですが。
抗体検査は、現在のところ日本では個人の状態を調べる目的ではやっていないようですね。そのうち行動の自由を広げる為に個人に知らせることになっていくかもしれませんが。

僕は今年花粉症がひどく、鼻水と目のかゆみに苦しんでおります。匂いを感じないことはないので、コロナではないでしょう。

>想像以上にコロナに罹った人は多いかと‥。

大分前の少数の抗体検査の結果、東京23区では概ね5%、神戸では3%くらい感染者がいるのではないかという数字が出ていますね。そのうち現在赤十字が献血で実行している抗体検査の結果が出るはず。それがどのくらいになるか気になるところでしょう。その数字が高いほど致死率等が低くなるわけで、却って安心材料になると思います(その辺を逆に捉えて、高ければ大変だという考えをしている人が多いですね)。