映画評「この道」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・佐々部清
ネタバレあり

何と佐々部清監督の追悼記事に相当することになってしまった。コロナではないらしいけれど、ビックリした。以下、まさかこんなことになるとは知らず、書いた映画評。

北原白秋の後半生を綴るオーソドックスな伝記映画である。文学ファンとしては見ないわけにはいかない。監督は佐々部清。
 佐々部監督は、作品の傾向としては山田洋次監督の後継者となり得る人だが、映像言語の扱いの巧みさ・映像文法の正しさという点において大分及ばず、本作もNHKの朝ドラのようであって、映画としての面白味に欠ける。これでは余り良い顔は出来ない。

1912年、既に詩人としての地位を確立していた白秋(大森南朋)は女性関係に奔放、夫君と離縁寸前の隣家の人妻松下俊子(松本若菜)との関係を夫君に知られて姦通罪で逮捕されるが、童話作家・鈴木三重吉(柳沢慎吾)らの奔走で保釈される。ここに童謡詩人としての端緒がある。
 白秋と再婚した俊子と離婚、再婚した女流詩人・江口章子が家出をした後(再婚場面がないので俊子が家出をしたと理解できてしまう難点あり)、彼は菊子(貫地谷しほり)と三度目の結婚をする。
 鈴木の創刊した児童雑誌『赤い鳥』で発表した子供向けの詩に惚れ込んだ山田耕筰(AKIRA)とは激しい衝突の後に深い友情で結ばれ、「からたちの花」「この道」「ペチカ」などお馴染みの名作を発表する。1930年代に軍国化が進む中で抵抗しきれず忸怩たる思いを抱く中、病気でほぼ失明し、戦争の結果を知らずに1942年他界する。

というお話が、白秋の死後十周年式典の後、老いた耕筰が女性記者(小島藤子)に彼との思い出を語る形式で進められるが、見せ方は型通りで、伝記映画としてもダイジェスト的で迫力を欠く。

本作は童謡詩人としての白秋に焦点を当てているので仕方がないのだが、白秋をよく知らない人が詩人・歌人としての偉大な業績を感じ取れるとは言えない憾みが残るのは、文学ファンの僕としては非常に残念である。
 女性に傾きやすく、子供のように喜怒哀楽の激しいところは、通常レベルの略歴を読んでもなかなか出て来ない部分であるため一通り興味深く見た。

それほど重視するには及ばぬものの、治安維持法成立辺りから1930年代にかけて吐かれる台詞には、安倍政権になって漂う不穏な空気を風刺する意図が多少あるような気がする。

大森南朋は風貌的に白秋の気分は相当ある。白秋のほうが大分上品ですがね。

僕は、名前だけ出て来る人を含めて、本作に登場する文学者の作品は最低一つ(島崎藤村と鈴木三重吉以外は詩集・歌集)を読んでいる。島崎藤村、蒲原有明、三木露風、与謝野鉄幹。与謝野晶子、鈴木三重吉、高村光太郎、萩原朔太郎、室生犀星、石川啄木、大手拓次。
 この中で大手拓次は知名度で劣るが、実は僕の住んでいる町が生んだ唯一百科事典クラスの文学者なのでござる。高校の先輩にも当たる。

僕の読んだ新聞には載っていなかったが、「チルソクの夏」が佐々部監督のベストと思う。昔DVDに保存したかどうか? してあればこの作品で追悼したい。

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