映画評「天才作家の妻 -40年目の真実-」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年スウェーデン=イギリス=アメリカ合作映画 監督ビョルン・ルンゲ
ネタバレあり

映画鑑賞歴も50年くらいになった僕には今ドラマが面白い。ジャンル映画に映画的に面白いものが少ないということである。スウェーデンの監督が作ったこの映画もお話は、実話ではないが、ノーベル文学賞受賞をめぐる夫婦を描いてなかなか興味深い。

1992年ノーベル文学賞に選ばれたアメリカの男性作家ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)が糟糠の妻ジョーン(グレン・クローズ)と作家志願の長男と共に授賞式に向かう。飛行機の中で腹に一物を持つ伝記ジャーナリスト(クリスチャン・スレイター)から声を掛けられるが、作家はすげなく追い払う。
 ここで舞台は暫し1958年に移り、大学の文学講師ジョゼフが女子学生ジョーンに才能を感じ、やがて前妻を追い払って後妻に迎える。やがて映画は、アイデアが豊富にあるがディテイルと表現力に乏しい夫に代わり彼女が具体的に文章化し、その結果が文学賞に繋がったということを明らかにしていく。
 三十余年の彼女の鬱屈は、授賞式での彼の言葉によりはじけ、ホテルに帰宅してしまう。それを巡って夫婦喧嘩に発展した後、彼が心臓発作を起こして急死する。彼女は、夫婦の秘密に気付いているジャーナリストに夫の名誉を傷つけたら訴訟を起こすと言うと同時に、彼からその″事実”を教えられた息子に“後で姐さんと一緒の席で話すことがある”と告げる。

本格ミステリーのファンに人気の高いエラリー・クイーンにヒントを得たような気さえする物語。エラリー・クイーンは実はマンフレッド・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーの二人組で、ダネイが基本プロットとトリックを案出し、それを文才のあるリーが文章化したのである。
 従って夫君に名誉を独占したいという欲がなければ、ジョゼフ・キャッスルマンの名前を記号とする二人組の作家として活躍でき、この二人がノーベル文学賞を受賞することもできたはずである。ノーベル賞は一人が対象とは限らない。ただ、純文学で二人組というのは極めて少なく、少なくとも後世に名を残しているのはゴンクール兄弟くらいだ。

いずれにしても、興味深いのは実質の書き手である妻ジョーンの心理である。夫君が受賞の言葉として妻としての役目を果たしたという意味で妻への感謝の気持ちを示したことが彼女には面白くない。徹底して無視される方がマシだったのであろう。
 翻って夫君とてその立場が快かっただけではあるまい。妻に文才に頼って得られた名誉にはストレスを感じることも多かったにちがいない。人間的に相当問題のある彼を一方的にくさすだけでは、純文学的な観点では見当違いと言うべし。

そんな彼らも創作を離れればとこにでもいるような人の良い老夫婦である。孫の誕生を聞いて共に喜ぶ姿を見せることでお話に芯ができるのがうまい。かくして三幕五場くらいの高い質の芝居を見たような気分にはなるが、夫君が死んでしまって結を迎える形なのがもう一つ物足りなく感じられる所以。それほど強引でなく、物語の収束の仕方としては格好になっているとは言え、問題を解決する手段として片方を死なせてしまうのは余り感心しないのである。

グレン・クローズ好演。デビューが遅く、かつ、昔から年齢不詳の老け顔だったので、初めて見た頃とイメージが殆ど変わらない女優です。

英米の資本は入っているらしいが、実質的にはスウェーデン映画だから、これもまた″なんちゃってアメリカ映画”と言って良いだろう。実は明日の映画もそうなのだ。

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