映画評「喜望峰の風に乗せて」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年イギリス映画 監督ジェームズ・マーシュ
ネタバレあり

相変わらず多い実話ものであるが、下に記すストーリーを読んでもらえば解るように、他の作品とは違う。このタイプは現在もしくは現代実話ものでは珍しい。

1968年。船舶用の小型無線方位特定機などを開発製造販売するベンチャー起業家ドナルド・クローハースト(コリン・ファース)が、行き詰まる会社経営を乗り越え、また名誉・名声を得ようと、新聞社サンデー・タイムズ社が企画する単独無寄港世界一周で優勝もしくは最速記録を狙って、自慢のアイデアを投入した船を実業家スタンリー・ベスト(ケン・スコット)の投資により作るが、自分の思うような設備を完備する前に出発期限である10月31日を迎えてしまう。
 躊躇した末にイングランド南部ファルマスを出港した彼はやがて海の厳しさを知る。全く思うように進まないのである。引き返せば抵当の会社と家をベスト氏に取られてしまう。かくして、彼は嘘の報告をし続けることになる。
 結局アルゼンチンに寄った後、事実上引き返すことになるが、最初に帰港したノックス=ジョンストンを別にするとライバルたちは次々と脱落、結局帰港すると嘘がばれることを怖れ、自殺してしまう。

何が普通のドラマ系実話と違うか? 言うまでもなく、通常この手は何らかの成功なり幸福なりを得て終わるのだが、どこからどこまでも失敗物語。映画としてはこれが面白いと思うのである。

彼が独身者であれば帰ったのではないか。しかし、彼には、彼の帰港を待つ愛する妻クレア(レイチェル・ワイズ)と4人の子供がいた。希望を持たせた以上捏造者として帰れないと思うのが常識。
 出航前に彼は準備不足を理由に延期を申し出るが、この時に新聞社のホールワース(デーヴィッド・シューリス)が“彼が常識人である証拠である”旨の発言をする。妻子を路頭に迷わせるわけには行かずに出発した彼は常識人故に帰れないのである。

年を取るに連れどんどん僕好みの美人になっているレイチェル・ワイズ出演の作品では「光をくれた人」が大衆的な素材のうちにかなり厳しく自らの選択により葛藤する運命を背負わされる人間たちを見つめていた。この作品はもっと単純な構図ではあるが、人生における選択とその結果に当たる葛藤の招来という点に通底するものがあり、他山の石ともし得る良い教訓譚と言って良い。

批判するわけではないが、ミスリードする邦題だねえ。しかし、知る人ぞ知るお話らしく、何度も映像化されていると聞く。

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