映画評「家へ帰ろう」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年アルゼンチン=スペイン合作映画 監督パブロ・ソラルス
ネタバレあり

ホロコーストものは相変わらず作られているが、アルゼンチン発(調べたところが脚本兼監督パブロ・ソラルスはアルゼンチンの人)はさすがに珍しい。

1945年少年アブラハムが両親と妹を失いながら辛うじて生還する。
 本作はその70年後くらいの様子を主体とするお話で、今や偏屈至極な老人となった彼(ミゲル・アンゲル・ソラ)は財産を分け与えた二人の娘に老人ホームに追いやられる憂き目に遭い、一念発起して70年前に自分を助けれくれた元使用人の息子ピオトレクへの約束を果たすべくアルゼンチンからポーランドへ行く為に、まずスペインへ向かう。ところが、泊ったホテルでなけなしの金を全て盗まれてしまう。
 仕方なく昔勘当してマドリードへ追いやった三女クラウディア(ナタリア・ベルベケ)を許しに行くという名目で旅行の費用を工面して貰う。

監督のソラルスにどの程度意識があったか不明だが、おべんちゃらを言う長女と次女に財産が渡され、言わない三女が追い出されるという構図はシェークスピア「リア王」をもじっている。こちらの三女はコーディリアと違って密かに財産は貰っているし彼女ほど親思いではないものの、旅行費を工面してくれるだけの優しさはある。収容所に入ってもいないのに、番号の入れ墨をしているのも父親への愛情を裏打ちしよう。

かくしてスペインを離れる老人は、パリで列車が憎きドイツを通ることに憤然とする。どうにもならないと承知した彼は何とか列車には乗るも、乗り換えの際にドイツの土は踏まないと頑なな態度を取る。そんな彼に手を差し伸べるのがドイツ女性のイングリッド(ユリア・ベーアホルト)。相手がドイツ人なので面白くないが、彼女の親身な態度に彼の思いも軟化する。
 しかし、ドイツを通行中にドイツ人の大群を見て彼は卒倒、ワルシャワの病院で目覚め、看護婦ゴーシャ(オルガ・ボラズ)に頼んで故郷の町に連れて行って貰い、遂に恩人ピオトレク(ヤン・マイゼル)との再会を果たす。

一応ホロコーストものの範疇に入れていいと思うが、人間観に関しては寧ろ肯定的で、アルゼンチンを旅立った後彼が出会う人物が尽く個性的な好人物であるということ。彼らなくして主人公は恩人でもある親友に会うことは叶わなかった。その中にドイツ人がいることが彼の余生におけるドイツ人観を大いに変えたはずで、幸せな余生を送れるのではないか、そんな余韻がしみじみと画面の外に滲み出る。
 つまり、本作は、主人公が、完全ではないにしても人間不信を払拭するお話である。反面、彼のフラッシュバックを見ると、トラウマというものは実に恐ろしいと思わされる。彼が偏屈な老人であっても、それは仕方ないと思わせるものがある。

老人が主人公のロード・ムービーと言えば、秀作「ハリーとトント」(1974年)を思い出す。それほど長いわけではないし、今年再見することにしよう。

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