映画評「かごの中の瞳」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり

マーク・フォースターという監督は幅広い素材を適切なショット感覚で処理するので、現在のウィリアム・ワイラーとして僕がご贔屓にしている作家である。「007慰めの報酬」は流行の細切れショットを真似た為に彼の感覚の良さが発揮できずに失敗に終わったが、余り面白くない作品でもその点だけは楽しめる作品が大半。

通常は監督に専念する彼が珍しくショーン・コンウェイとの共同で自ら脚本にも関わっているからこんな言い方は奇妙になるが、ドラマなのかサスペンスなのか作品の性格が曖昧、どこか物語の扱いに困っている感じで、これについては、簡単にお話を紹介してから、述べる。

少女時代に両親を失った交通事故で自らは失明した美人妻ブレイク・ライヴリーは保険会社社員である夫ジェースン・クラークとバンコクに暮らしている。二人は子供が欲しいと願っているが、うまく行かない。
 そんなある日網膜等の移植手術を受け片目だけ視力が復活した彼女は次第に奔放な性格を発揮するようになる。保守的な夫は妻を喜ばす為に姉アナ・オライリーの暮らすスペイン(どうもここで事故に遭ったらしい)へ旅立つ。そこでの彼女の行動も夫には面白くない。
 やがて帰国するとブレイクの目に異常が起き、医師に目薬の検査を求めると、案の定問題ありと告げられ、医師の寄越したサンプルだけ使い始める。留守をしたある時に泥棒が入り、隣人から譲り受けた愛犬も行方不明になる。夫は犬を探してくれるという男性と彼女が知合いであるということを彼の愛犬の特徴から察して、その持主について嘘を言って来た彼女をなじる。
 産科医から自分は妊娠させる能力が殆どないと聞かされ失意に落ち込んだ彼は彼女の妊娠を知り、かつ、ブレイクが隣人の娘と自作の歌を発表する会場で“心の中ではあなたしか見えない”という主旨の歌詞を聞いて動揺、車を飛ばして事故死する。

と、映画が見かけ上示す内容をそのまま書いてきても一体どんな話なのか解りにくいので、主題を整理する。
 要は、視覚を取り戻したことによって妻が自分の意のままにならなくなった夫君が妻への支配力を復活させるべく再び失明させようとするが、思い通りにいかず自滅する、というお話である。

コンウェイが根本の物語を考えたのではないかと想像するが、このお話はストレートに描いても三文映画にしかならない。それでは困るので、夫婦それぞれの心情に関する表現を最小限に留め、かつ意図的に前後関係の脈絡が余り取れないように作り、観客に考えさせる作戦を取ることで解決しようとした結果、こんな解りにくい作品になったと推察できる。
 だから、ある人の言う“自己満足的”という表現は的外れだろう。自分の満足の為ではなく、三文映画ではなく映画芸術として成立させる為にはこれ以外の手法が考えられなかったのである。適切なショットを適切な繋ぎで場面を構成するフォースターとしては(外部に向けてどう発言しているか知らないが)不本意であったと推測するしかない作品で、僕は買わない。何回か観て内容を詰めていくという意味で少し面白味のある作品ではある。

何でも屋だから個性がないと言われるが、ワイラーもこのフォースターも絵作りにはしっかりした作家性を持っている。背後に揺曳させる共通したモチーフもある。

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