映画評「マチルダ 禁断の恋」

☆☆★(5点/10点満点中)
2017年ロシア映画 監督アレクセイ・ウチーチェリ
ネタバレあり

1890年代中葉マリインスキー・バレエ団の花形マチルダ・クシェシンスカヤ(ミハリーナ・オルシャニスカ)に惚れ込んだ皇太子ニコライ・ロマノフ後のニコライ2世(ラース・アイディンガー)は、結局1894年に即位し、既定路線であったヘッセン大公女アリックス(ルイーゼ・ヴォルフラム)と結婚する。

ニコライ2世側から描けばこういうお話だが、タイトルが示すように、本作はやはりマチルダの情熱の物語と理解すべきであろう。彼女は自分の立場が解っていてニコライに結婚を迫ったりはしない代わりに、色々な場所に出没、側近たちは目障りなので種々の細工をするのだが、果たせない。彼らが彼女を本気で殺そうとしたのか否かも実に曖昧(爆弾による暗殺未遂の後湖に落ちた彼女に救いの手を差し伸べている)。
 この点を含めて全編に渡り脚本が混乱していると言う以上に、気取る余りに解りにくくなったという感が強い。戴冠式に臨むニコライが、湖で死んだと思っていたマチルダが式場に現れたを見て驚きの余り失神する辺りの描写も実に解りにくい。
 
他方、マチルダがポーランド貴族の血を引く証拠を探してすぐに諦めたり、即位に備えてのバレエから排除されたのに強引にライバルのレニャーニと競おうとする彼女の心情はなかなか面白く描かれている。

が、そうした点が全体の面白さに繋がらないのは、一般論として観客がニコライ2世一家が1918年に皆殺しに遭うという事実を知っているからである(知らない人は幸いなり)。つまり、彼と結ばれなかったマチルダは生死を分かつという意味において幸運であり、ニコライとアリックスは不運という、運命の皮肉を感じながら観るしかなく、これではマチルダとアリックスのライバル関係そのものが興趣を誘うわけがない。乱暴な言い方をすれば企画そのものが間違いだったのである。

しかるに、それは物語への興味に限っての話で、視覚的には見どころが多い。美術・衣装は圧巻、絶対量としてはそれほど多くないバレエ場面を含めて画面にはソ連以前のロシア的な魅力が満載。そちらで大分点を稼いだ形でござる。「愛の奴隷」(1976年)の頃のニキータ・ミハルコフが撮ったら悲哀が滲み出てもっと上質の作品になったにちがいない。

ニコライ2世が自ら披露するロシア史上初の映画(実写)に字幕が入っているが、映画史的に言ってそれはないだろう。

年々ロシア語聞き取り能力が落ち、余り解らなかったなあ。ニコライが恋人たちに向ってТЫ(ツィ)と言っているのをВЫ(ヴィ)同様に“あなた”と上品に訳したのは却ってセンスがある。フランス語の小説を読むとこの手は大概“お前”とか訳すのだが。

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