映画評「輝ける人生」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年イギリス映画 監督リチャード・ロンクレイン
ネタバレあり

年を取り、死ぬこともたまに考えるようになったから、老人たちを主題にした作品には、出来栄え以上に心が動かされてしまう。7月に観た邦画「体操しようよ」は映画としては可もなく不可もない程度であったが、相当甘くなってしまったし、本作はそれよりぐっと上出来ながら、評価に少し悩むところがある。

35年連れ添った夫ジョン・セッションズがナイトの称号を受け、晴れて“レディ”と呼称されることになったことに鼻高々の夫人イメルダ・スタウントンは、その祝宴の最中に夫が親友ジョジー・ローレンスと5年間も浮気していたことを知って怒り心頭に発し、家を出て長いこと不仲だったヒッピー系の姉セリア・イムリーの家に居候を決め込む。
 姉は独身で、認知症の妻の為に財産を投げうって舟で暮らす修理業ティモシー・スポールと親しくしている。二人はダンス・クラブに通う仲でもあり、妹を誘うが、気取り屋のイメルダは断ってしまう。
 しかし、夫から離婚届が送られ、また姉からダンスをする少女時代を収めたフィルムを見せられると、実は昔「コーラスライン」の二次選考まで残った踊りの名手だった自分を思い出し、徐々に上流階級にいた時に蔽った殻を破り、ダンスに参加するだけでなく、スポール氏とも親しくなっていく。ところが、姉が末期がんであることが判明し、ローマでの集団ダンス披露の後亡くなると、スポールから妻が(認知症ながら)まだ生きていると知らされ、折しも夫から復縁希望の手紙が届いたことから、反省しきりの夫の許に戻るしかなくなる。
 が、夫は旧態依然の価値観で自分を縛ろうとするのに我慢ならず、妻の死を受けて舟で欧州への冒険旅行に出ることにしたスポールを追いかける。

本質的に古臭い人間である僕は、古い観念に縛られ過ぎるのもどうかと思うが、それを全く無視するのもどうかという気がする。正にその狭間で揺れ動くイメルダ(扮するヒロイン)は夫の強制がなくても基本的には古い人間である。だからスポールの妻が生きているならば、その彼女が妻としての役目を果たしていずとも、スポールのパートナーになることができず、一旦は帰る。妻が死んだからと言ってすぐにその話にも飛びつくわけにも参らぬ。それを夫がつまらん上流意識で彼女を縛ろうとするから、もっと自由だった昔を思い出していた彼女は彼のもとから去るのである。
 この男は本質的に妻の気持ちなど全く解らん野暮天で、反省したのは不倫の事実のみ。この辺り、正に結婚哲学、夫婦関係の機微をよく描いていて、大変面白い。

人生の選択もまた難しい。若い時に恋人に死なれて結婚を諦め、自由に生きて来た姉には姉の不幸があり、彼女は妹に自分のような人生を送らせたくないので、つらい経験をしてきた者同士を結び付けようと画策(尽力ですな)する。姉のこの思いもじーんとさせられる。

といった次第で、元気な老人を描かせては断然うまい英国映画らしい佳作と言うべし。アメリカ映画は下ネタに走り過ぎるし、日本映画は人情に傾き、こういう軽みがなかなか出せない。

最近は古文もどきを使う邦題が多いね。中途半端な知識でやるから間違いも多い(「われらが背きし者」など)が、本作の題名は一応正しい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント