映画評「アクロス・ザ・ユニバース」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2007年イギリス=アメリカ合作映画 監督ジュリー・テイモア
ネタバレあり

エルトン・ジョンの伝記映画「ロケットマン」のCMを見て、ビートルズの曲で構成されていると伝え聞いたミュージカル映画「アクロス・ザ・ユニバース」を未だ見ていないことを思い出し、たまたま3000円のアマゾン・ギフト券をもらったので、他の作品と一緒にブルーレイを購入した。

参りました。興奮しました。ビートルズ・ファンであれば、半分くらいの人は文句を付け、半分くらいは良くぞやったと思うだろう。僕は断然後者である。

本作のお話は僕にとってさほど重要ではないが、それでも歌詞との関係で書いておかねばならない。

1960年代後半、リバプールからD・H・ロレンスの小説を抜け出たようなデュード青年(ジム・スタージェス)が渡米して、第二次大戦の出征中に母親と関係して去っていたアメリカ男性である父親を大学に訪ねる。
 その大学で知り合った上流青年マックス(ジョー・アンダースン)を介して、恋人をベトナム戦争で失うその妹ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)と親しくなる。
 彼らは堅苦しい家を飛び出て、歌手セディ(デイナ・ヒュークス)の貸し出す部屋を住処とし、やがてそこは彼女のバックバンドの家となっていく。しかし、恋人を殺し兄マックスに精神的なダメージを与えたベトナム戦争に怒りを禁じ得ないルーシーの抗議行動にデュードは反発を覚える。ルーシーもやがて仲間の意味のない過激さに気づく。
 しかし、デモに巻き込まれて一度帰国を余儀なくされたデュードはルーシーへの思いに気づき再度渡米する。

というお話で、まず登場人物の名前から行きましょう。デュード、ルーシーは言うまでもなく、セディ、ジョジョ、プルーデンスなどビートルズ・ファンにはお馴染みの人名が色々と出て来るのが嬉しい。(ラブリー・)リタもヒッピー的な場面にちょっとだけ出てきましたな。

また、ビートルズが活躍した時代を舞台にしているのが良い。当時の反戦運動、ヒッピー文化、サブカルチャーなどの要素がふんだんに取り込まれ、当然のようにヒッピーの部分ではサイケデリックな映像が画面を賑やかす。
 ジョン・レノンが書いた「レボリューション」Revolution は恐らく1968年の五月革命を批判した曲(革命応援歌と思っている人も多いが、まるで逆)で、本作では主人公がヒロインやその属するグループにぶつける怒りの言葉として歌詞が使われている。

ジョジョはジミ・ヘンドリックス、セディはジャニス・ジョプリンを投影しているように思う。僕が大好きな曲「セクシー・セディ」Sexy Sadie を知っている人は彼女が何をやらかすかヒヤヒヤしながら見ていただろうが、この曲の歌詞(彼女はみんなをコケにした=裏切った)ほどひどいことをせずに終わる。

ナンバーの多くはそのままではなくてもオリジナルの曲調を生かしつつ巧くストーリーに適用させているのが感動的で、比較的変えているものではオリジナルの楽曲の優秀性を引き出している。例えば、実に変てこなコード進行の「恋におちたら」If I Fell は“これはそのままクラシック音楽として通用するねえ”と思わせる。「ホールド・ミー・タイト」Hold Me Tight は彼らの曲の中では凡作の部類だが、映画の中でこうして他の人の歌唱で聞くと実に格好良いロックンロールとして新鮮に聞こえた。その類が実に多い。

終盤は色々と感動的なのだが、「愛こそはすべて」All You Need Is Love には元来「シー・ラブズ・ユー」She Loves You のフレーズが入っているので映画の殊勲ではないものの、これらの曲に乗ってデュードがルーシーを見出すところは実に素敵でござる。

それ以上に感動的なのは、最後のライブがアップル・ビルでのゲリラ・ライブを模していること。警官の粋なはからいが実際に即していてビートルズ・ファンを泣かせます。歌われているのが「ドント・レット・ミー・ダウン」Don't Let Me Down だから、文句なし。この場面ではジョジョはこのライブでキーボードを担当していたビリー・プレストンにも見える。喧嘩別れしていたセディがジョジョと和解して共演するという流れは、ジョンとポールの実際に重なるところがあって、感動しないではいられないでしょう。

お話がうまく繋がっていないところも結構あるが、怒涛のカオスぶりに僕はすっかり舞い上がってしまった。

先日の「Qさま‼」で葉加瀬太郎が、昭和・平成において時代を変えた音楽家10人を発表、ビートルズが1位に選ばれた。当然であります。反面、40代以下の方々、イージーリスニングの帝王ポール・モーリアを全く知らなかった。

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この記事へのコメント

2019年09月16日 12:03
2008年度マイベスト作品でございます。
ビートルズの曲を使った映画では、いちばん好きかもしれません。
歌で感激して、そのうえ、監督の作家性ゆえと思われる、ユニークな映像も冴えまくりの驚きもプラス。
好きな人には、めっぽうハマる傑作といっていいのでは。
また、そのうちに見たいものです。
浅野佑都
2019年09月16日 15:32
 これは、京都四条烏丸の京都シネマで観ました。プロフェッサーは疾うに鑑賞済みかと・・・。ミュージカルというよりは、まさに現代風なロックオペラでしたね。

 ミュージック・クリップ風なんですが、「I want you」の徴兵検査の場面では、のアンクル・サム(合衆国)が君を欲しがっている、という解釈で作られていて、歌詞の”She's so heavy"のsheは、「自由の女神」だったりする・・なかなかやるな!と思って観ていました。

高畑功の「想ひでぽろぽろ」で、ヒロインの長姉が「ビートルズは歌詞がいいのよね」と言っていますが、特に、ジョンの詩にイギリス文学の多彩さが現れていますね。
” I am the walrus”はルイス・キャロルを彷彿させるし、-tionで終わる名詞をたくさん使っている”revolution”はシェイクスピア風。
時にシニカルであったり、ペーソスも感じさせたり、才能を遺憾なく発揮している。
ビートルズの解散後は、どうしても”イマジン”に代表される「愛と平和」のイメージですが、詩としてはやはり、ビートルズ時代のものが圧倒的にいいと思いますね!

ポールの詩は人口に膾炙していて普遍性がある。宗教的な意味を持つ、”let it be “も、応援歌である”hey jude”にしろ、いつの時代でも聞ける音楽でしょう。
“helter skelter"のような激しい曲も書いていて、これも映画の中で、うまく使われていましたね。

革新性と普遍性、この相反する2つの特徴こそ、ビートルズの音楽(詩)の本質だと僕は思います(~かな、なんて付けません笑)。

>他の人の歌唱で聞くと新鮮に
ビートルズのCDを聞かせても、今一つ反応が鈍い十代と二十代の僕の姪たちにこの映画を見せるとノリノリでして、今風なアレンジもいいもんだなと・・。
「With a Little Help from My Friends」など、原曲は僕はあまり好きではなかったですが、曲のコンセプト・展開に完全に同化した役者の歌もとても良かった。この曲を歌ったリンゴ・スターが観たら、大喜びで拍手を送るでしょう!

>半分くらいの人は文句を付け、半分くらいは良くぞやった
リアルタイムに青春期を送った世代は、文句つけるでしょうね(笑)

ジョー・コッカーとU2のボノがちょい役で出ていましたが、お気づきになったでしょうか?僕はボノはすぐわかりましたが(笑)
オカピー
2019年09月16日 22:19
ボーさん、こんにちは。

>2008年度マイベスト作品でございます。
そうでしょう。
僕も、今年のベスト3には入るでしょう。1位の可能性もあります。

>ビートルズの曲を使った映画では、いちばん好きかもしれません。
評判が誠に悪い「サージャント・ペパーズ」も未見なので比較できませんが、これより良いということはありえませんので、僕は断言してしまいます(笑)。

>好きな人には、めっぽうハマる傑作といっていいのでは。
曲のアレンジもよく、間違いなく傑作と言って良いと思います。
オカピー
2019年09月16日 22:54
浅野佑都さん、こんにちは。

>プロフェッサーは疾うに鑑賞済みかと
はあ、すぐにWOWOWに出るかと思っていたら結局出ませんで、今頃になってしまいました。しかし、待った甲斐はあり、感激しまくりましたよ。

>I want you」の徴兵検査の場面
傑作でしたねえ。
自由の女神が重いのは当たり前ですが、自由が重いという意味で、よく考えられていました。
 この曲が対位法的に恋愛感情にも用いられていまして、本作にはこうした対位法的構成が幾つもありましたね。"Revolustion""Let It Be"もそうでした。

>” I am the walrus”はルイス・キャロルを彷彿させるし、
>-tionで終わる名詞をたくさん使っている”revolution”はシェイクスピア風。

そういう文学的なアングルで捉えるのも面白いですよね。"Lucy in the Sky with the Diamonds"なんかもただシュールという解釈で済ませず、ルイス・キャロル風に捉えてみると楽しい。
 シェイクスピアの英語版をKindleで無料で読んで勉強しようとしてもなかなか出来ない。著作権は当然ないわけですが、出版社が邪魔をしている。けしからん(笑)。


>革新性と普遍性、この相反する2つの特徴こそ、
>ビートルズの音楽(詩)の本質だ

そういうことだと思いますねえ。
 初期から中期は、女の子からキャーキャー言われながら、実はヘビーなこと(”If I Fell"なんて聞けば聞くほど信じがたいコード進行ですよ)をやっていましたし、後期は正に実験を追求しながらあれだけ口ずさみやすい名曲を発表し続けたわけですからねえ。


>今風なアレンジもいいもんだなと・・。

本作の場合、もとのアレンジも生かしているものが多く、実に良かった。余りに変えてしまうと、原曲の良さが死んでしまうことが多いですからね。


>ジョー・コッカーとU2のボノ

余り自信がないので、現物で確認してみました。ジョー・コッカーはジョジョが現れる場面で衣装をとっかえひっかえ"Come Together"を、ボノはドクター・ロバート役で"I Am the Walrus"を歌っていました。正解でしょ?
モカ
2019年09月18日 11:50
こんにちは。

初めて聞くタイトルです。 京都シネマで上映していたんですか・・・
その頃ならまだ京都シネマ会員になっていたはずですが、何やかやと忙しい時期だったのか記憶にないです。

>半分くらいの人は文句を付け、半分くらいは良くぞやった
リアルタイムに青春期を送った世代は、文句つけるでしょうね(笑)

 リアルタイムに思春期でしたが評価はどっちに転ぶでしょうか、観るのが楽しみです。
 たぶん、両極端には振れないと思います。

 私の世代だと、洋楽の最初の大きな入口がビートルズなんですが、まさにリアルタイムなのでどこまでビートルズの波に乗っていけたかは人それぞれ、十人十色だったと思います。
 ビートルズの次、というかビートルズ以外でどの方向に行くか、あるいは行かないか、千差万別でしたね。
 だから困ったことに「ビートルズが好き」だけでは共通の価値観をもてないんですよ。それ以外全く趣味が合わないことがままありました。( 今もあります。)
それぐらい、程度の差はあれ誰でも知っていたとも言えますが。
偉大なるポップスですね。
何を言うか!ビートルズはロックだ!とのお叱りの声があがりそうですが、個人的な思いですので、スルーしてくださいませ。

 中学の時、隣のクラスに東京公演に行った強者女子がいまして、4,5前の同窓会で会ったら、いまだにポールの追っかけをしているようでした。ワルシャワのコンサートに行ったらポールと同じホテルだったとかで、写真を見せてもらいました。
 ファン歴50有余年! こんな人もいるんですね。

>40代以下の方々、イージーリスニングの帝王ポール・モーリアを全く知らなかった。

 そんなもんでしょうね。知ってたら逆におかしいくらい(笑)
私の世代でグレン・ミラー知ってる人ってクラスに何人いたかっていうレベルですもん。


オカピー
2019年09月18日 21:42
モカさん、こんにちは。

>リアルタイムに青春期を送った世代
という浅野さんの表現は、1960年代にビートルズのコアなファンだった人という意味だと思います。

しかし、正にその時代を生きて来たモカさんの実感には説得力があります。僕の兄貴は同じ世代ですが、洋楽にはまるで興味なく、この手の話ができない。
 40年くらい前に兄の友達が我が家に来て、「愛こそはすべて」の世界同時中継を観た、と聞いた時には羨ましくなりましたよ。その時僕は何を見ていたのだろう? もし見ていたらアポロ11号の月面着陸と同じくらい意義深いことだったでしょう。

>偉大なるポップスですね。
良いんじゃないでしょうか。
僕はヘビーなポップスと言っています。

>ポール・モーリア
小学生から大学生くらいにかけて大人気でした。
 で、今世紀に入りイージーリスニング大全集というCD集を買ったのですが、ポール・モーリアの巻を聴いてがっかり。新録音でした。
 彼は同じ曲を何度も録音しているのでこの手が多いのですが、数年前オリジナルの音源を集めた2枚組のベストをやっと発見、この機会を逃してなるものかと買いましたよ^^v
 フランシス・レイの良いベスト盤(勿論オリジナル・サウンドトラックで)が出るとこれも“買い”ですがねえ。