映画評「告白小説、その結末」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年フランス=ポーランド=ベルギー合作映画 監督ロマン・ポランスキー
ネタバレあり

ロマン・ポランスキー84歳の新作である。

母親の自殺をテーマにした実話小説が成功して一躍人気作家になったエマニュエル・セニエがスランプに陥る。熱烈なファンという女性エヴァ・グリーンと交流を続けた末に彼女を秘書的な立場で我が家に迎え入れると、今度は何故か彼女のフィクションへの傾倒に強く反対するエヴァの妨害に苦しむことになる。
 やがて足に負傷を負った為にエヴァの田舎の家に一時的に引っ越すことになり、その道中に彼女の人生をテーマに執筆することを思い付く。しかし、ここでもエヴァの激しい気性が彼女を妨害、執筆データも破棄され、やがてエマニュエルは食中毒で激しく衰弱、命の危険性も感じて深夜の雨中家を抜け出す。

ここまでのお話は「ミザリー」に似たお話の構図であり、観客は専らどうサスペンスが醸成されていくか関心を持って観続けていくことになるが、何か起こるだろうという雰囲気だけで最後まで進み、彼女の衰弱の原因がエヴァが殺鼠剤をスープに入れたせいと判明するところにゾッとするくらいで、ポランスキーの実力を考えれば生ぬるい。

ところが、この作品の眼目は、彼女の新作のサイン会ではっきりする。生ぬるいのは計算のうちで、最後の最後にこの作品はメタフィクションであると表白するのである。つまり、本作のタイトルはD'après une histoire vraie(実話に基づく)であり、彼女の新作もD'après une histoire vraie。つまり、この作品自体が彼女の新作を書く苦闘ぶりを綴る私小説的な新作の内容であると想像される洒落っ気。

とは言え、それだけでは今となっては手垢のついた手法に過ぎず大して面白くない。しかし、二度目のサイン会でのエマニュエルの外見を見ると、どうもキキという架空の話し相手を持つエヴァ自身が正にエマニュエルにおけるキキであったらしいと判る、というところに考えが至って初めて本作の本領が感じ取れる次第である。
 すると、例えば、内縁の夫ヴァンサン・ペレーズが入院した彼女に放つ「どうして自殺しようとしたのだ」という質問が別の様相を示してくる。見た目ではエヴァが彼女に毒を入れたように見えるが、エヴァを幻想の産物と考えれば、自分で服用したのである。

原作者の名前がデルフィーヌ・ド・ヴィガンで、ヒロインの名前がデルフィーヌ。これを含めれば三重の入れ子構造の様相を示し、大袈裟に言えば、合わせ鏡を見るような酩酊を覚えさせる。ポランスキーの作品と考えると失望が先に立つが、まあ悪くない。

最近結末が書きにくい映画が多くて困ります(結局書いてしまったけれど)。

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この記事へのコメント

モカ
2019年11月24日 22:38
こんばんは。

これは最近みました。

>エヴァを幻想の産物と考えれば、

 なんの予習もしないでみましたが、察しの悪い私でも分かるほどみえみえの「幻想の産物」でしたね。

 冒頭のサイン会にエヴァが登場した時にすでに分かりました。
会場のざわめく音が消えて人影もなくなって、次のパーティー会場でも誰もいない部屋に入ったらエヴァがいるし。

 エマニュエルが外出時はいつも赤い毛糸編みのマフラーをしていて、エヴァに真っ赤なカシミア?のストールをプレゼントしたり。赤いマフラー好きなんですね。

 極めつけは同じブーツを履いてました。それも「同じブーツですよ~」と言わんばかりの念入りな映し方で、「わかりましたよ、分かりましたっ! エヴァが妄想の産物だと気づいてますよ」と思わずスクリーンに向かって叫びそうになりました。

 パリのメトロにあの真っ赤なルージュで怖い目つきのエヴァ・グリーンが乗ってたら周りの乗客はドン引きしますよ!

 エヴァ・グリーンって凄い美人だと思ってましたけど、ちょっと凄みがでてきましたかね~
 逆にエマニュエル・セニエはちょっとふっくらしてきて、ソフトになってこられたようですね。

 歳をとると変なところに几帳面になって無駄に丁寧なことをするタイプの人がいますが、ポランスキーもそのタイプなんでしょうか・・・
 
 
オカピー
2019年11月25日 19:41
モカさん、こんにちは。

>冒頭のサイン会にエヴァが登場した時にすでに分かりました。
それは凄い!

>次のパーティー会場でも誰もいない部屋に入ったらエヴァがいるし。
ここには僕も相当違和感を覚えました。しかし、確信にまでは至りませんでした。

>それも「同じブーツですよ~」と言わんばかりの念入りな映し方
僕は眠っていたのかな^^;
こういうお話はボケーっとしていた方が得かもしれませんね(笑)。

>パリのメトロにあの真っ赤なルージュで怖い目つきの
>エヴァ・グリーンが乗ってたら周りの乗客はドン引きしますよ!

全く。
シャーロット・ランプリングも、目の前にいたら逃げますね^^


>逆にエマニュエル・セニエはちょっとふっくらしてきて、ソフトに
そう思いましたよ。
モカ
2019年11月26日 15:22
こんにちは。

>やがて足に負傷を負った為にエヴァの田舎の家に一時的に引っ>越すことになり

 この田舎の家、エヴァの家じゃなくてエマニュエルが夫と一緒にいった家なんですよ。
夫と行ったときは昼間の場面で、エヴァと行ったときは夜なので印象が違いますが、同じ家です。
 「こんなとこに住みたいなぁ~」とか言いながら観てましたから確かです。

先生はしっかり観ていらっしゃったと思いますが、観てるところが違うんですよ。 
女性は大抵、ファッションチェックしながら観てますよ。余裕があればインテリアチェックも(笑)
だから二人がかなりよく似た服装だとすぐに気づくんです。

アメリカ映画はそうでもないですが、ヨーロッパ系映画は本筋以外に色々チェックポイントがあってそれも楽しみですけど、忙しいです。

ちなみにエマニュエルが回復して出版エージェントを訪ねる時はもう赤いマフラーじゃなくて同じタイプのブルー系のを巻いてました。 
オカピー
2019年11月26日 21:37
モカさん、こんにちは。

>この田舎の家、エヴァの家じゃなくてエマニュエルが
>夫と一緒にいった家なんですよ。

エヴァはエマニュエルの分身だから、理論的にもそういうことになりますが、モカさんはちゃんと見ているところが凄い。感心しますねえ。


>先生はしっかり観ていらっしゃったと思いますが、
>観てるところが違うんですよ。

相当迂闊だったのではないでしょうか^^;
 モカさんより若いですが、年を取って気が散ることが多くてですねえ。あるいはその日何か気になることがあったのかもしれませんねえ。
 しかし、そう仰っていただけると助かります。
 確かに、僕なんかカメラワークばかり気にしていますし、古い車など出て来ると異様に気になります。


>ヨーロッパ系映画は本筋以外に色々チェックポイントがあって

さっき「何でも鑑定団」という番組で、はるな愛が持ってきたルイ・マル監督、ブリジット・バルドー主演「私生活」の大きなポスターを鑑定していましたよ。
 この時代の映画などモカさんとしては非常に楽しいのではないでしょうか?


>赤いマフラーじゃなくて同じタイプのブルー系のを巻いてました。

はいはい、これは“何か変わったなあ”と思った記憶がありますよ。褒めてください(笑)。
モカ
2019年11月27日 20:40
こんばんは。

>僕なんかカメラワークばかり気にしていますし、古い車など出て来ると異様に気になります。

 カメラワーク! 私は手持ちカメラを揺らされない限りカメラワークという事自体を忘れております。
 車はうちも夫がゴチャゴチャ言いますね~

 いつ頃の映画かわからず観ている時は、私は女性の服装で、夫は車で年代を把握しますね。

 シャーロット・ランプリングの眼は暗いですね。
 
 「私生活」って観てないかも・・・
 「ビバマリア」の頃ですかね?

お洋服で一番好きなのはここ50年間ずっと「冒険者たち」のジョアナ・シムカスです。そろそろ、高齢者がお洒落な映画を探さないといけませんね。

 
 
 

オカピー
2019年11月27日 22:24
モカさん、こんにちは。

>私は手持ちカメラを揺らされない限りカメラワークという事自体を
>忘れております。

ワンダフル!
本当に良い映画はフレームを意識させないんです。
ジャンル映画ではカメラワークが大事ですが、特にドラマではカメラを意識させてはダメです。


>私は女性の服装で、夫は車で年代を把握しますね。

そうです。
ところが、「華麗なる一族」「金環蝕」「不毛地帯」という大作で有名な社会派監督・山本薩夫は車に関して実にいい加減で、設定と製作年が違う場合、昔の車を使わずに製作時の車を使って僕を怒らせました(笑)。特に1960年代から70年代にかけては車は短期間で劇的に変わりましたから、これはダメですよ。


>「私生活」って観てないかも・・・

ほぼ正解。ルイ・マルが「ビバマリア」の3年前に作った作品ですね。僕は「ビバマリア」のほうが好きかな。


>「冒険者たち」のジョアナ・シムカスです。

愛しのレティシアじゃないですか。
思い出しても胸がしめつけられます。あらゆる意味で至宝でしょう。
モカ
2019年11月28日 19:09
こんにちは。

山本薩夫って山本三兄弟のおじさんでしたか?
どれも見ていませんね~ 観たくなりましたが、車の違いは判らないでしょうね。
私はよほどかっこいい車でないと目に入らないんですよ。

話が飛んでしまいますが、オードリーってかっこいい車が似合う人でしたね。
「いつも二人で」車の使い方がお洒落でした。

「おしゃれ泥棒」も可愛い赤い車に乗ってましたね。
ピーター・オトゥールがクリームイエローのスポーツカーに乗ってるのが素敵で珍しく反応したら、
夫「これ持っててん」   モカ 「えっ?」
夫「小学校の時・・」   モカ 「・・・?」
夫「プラモデルで」    モカ 「ふ~ん」
 とりあえず、かの有名なジャガーだと教えてもらったので許しました。(笑)
オカピー
2019年11月28日 22:51
モカさん、こんにちは。

>山本薩夫って山本三兄弟のおじさんでしたか?
そうです。
少し話題になりかけた「白い巨塔」も彼の作品ですね。

>私はよほどかっこいい車でないと目に入らないんですよ。
あはは。
 因みに、1960年前半の車は今でいう流体形(但し高くて後年のそれとは違う)が多く、70年代のセダンは四角っぽく、一見して解ってしまうんです。旦那さんに聞けば頷いていただけるでしょう。

>「いつも二人で」車の使い方がお洒落でした。
そうでしたね。
 印象的なのは、オードリーの夫君アルバート・フィニーが若い時にヒッチハイクを無視され、中年になった彼が今度は若者のヒッチハイクを無視するというマッチ・カットでの繋ぎの面白さ。
 この映画はこうした繋ぎのオンパレードで、腰を抜かしました。マッチ・カットで繋いだ一ショットに二つの時系列が収まっているなんて超絶技巧。

>「おしゃれ泥棒」
>ジャガー
僕の記事によれば、最後の車もジャガーでした。
オカピー
2019年11月29日 09:01
モカさん、追記。

>>ピーター・オトゥールがクリームイエローのスポーツカーに乗って

うっかり“最後の車もジャガーでした”と書きましたが、同じ車のことですね。失礼しました。

それにしても、楽しい夫婦の会話ですね。「夫婦善哉」みたい。
モカ
2019年11月29日 17:35
こんにちは。

ご丁寧に訂正してくださってありがとうございます。

夫は面白いことなんか言えない所謂「天然〇〇」というやつです。
ああいう書き方をすると面白いかなっとやってみましたが、実際は私の部分は心の声です。(笑)


「いつも二人で」も「おしゃれ泥棒」も記事をアップされていましたね。 またそちらにもお邪魔させていただきます。

オカピー
2019年11月29日 21:32
モカさん、こんにちは。

>ああいう書き方をすると面白いかなっとやってみました

なるほど。
非常に楽しいので、今後もお願いいたします。