映画評「悦楽の貴婦人」

☆☆★(5点/10点満点中)
1977年イタリア映画 監督マルコ・ヴィカリオ
ネタバレあり

黄金の七人」シリーズで知られる監督マルコ・ヴィカリオ監督としては「ああ情熱」(1973年)の姉妹編のような内容で、日本では劇場未公開。邦題から期待されるほどのエロ系映画ではない。

19世紀末くらいのイタリア。酒を売るなどしている実業家マルチェロ・マストロヤンニが集金に訪れた先で死体を発見した際にその子供に見られ、秘密出版などしていることもあり、親友の医師にかくまってもらう。隠れ家は自分の家の眼前である。町では馬だけ帰ってきた為死去や失踪が噂される。
 夫のいる間は病床にいた奥手の妻ラウラ・アントネッリは意を決して立ち上がると、馬を駆って顧客や夫の所属していたクラブなどを訪れ、夫の激しい女性関係を知る。かくして対抗意識の芽生えてきた彼女は、性愛の遍歴を重ねる。
 夫は隠れ家の隙間から自宅を見て彼女の変貌に気付いているが、具体的に医師から若い医師レナード・マンとのアヴァンチュールを知らされると、益々落ち着かない気持ちになる(神父に皆の前であけすけに説教させるところはイタリア的な喜劇味あり)。
 彼女はマンから正式に求愛されるが、それに応える気持ちはない。やがて事件の真犯人が自首した為に隠れる必要のなくなったマストロヤンニは躊躇しつつ家に入って行く。

今でもイタリアや日本にはこういう優劣関係にある夫婦が少なからずいるのではないかと想像するが、現在とは段違いに男尊女卑で男性の浮気が何の問題にもされない時代にあって、最後に夫婦の力関係が対等になっていくという話はなかなか意味深長であると思う。

それを別にしても性愛論が先日再鑑賞した「エマニエル夫人」(1974年)などよりぐっときちんと語られ、夏目漱石がテーマとした近代的自我という問題を彷彿とさせるところすらあるが、ラウラが出ている事実や近い時代設定などで思い出さざるを得ない「イノセント」(1975年)ほど緊密度の高い描写は続かず、最終的に強いインパクトが残せない。19世紀末のイタリアを捉えた陰鬱なムードはなかなか上等。

アニー・ベルが自宅に出入りする謎の女性役で出ている。あの時代にちょっと騒がれたことのある短髪の美女です。

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