映画評「アポロンの地獄」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1967年イタリア映画 監督ピエル・パオロ・パゾリーニ
ネタバレあり

現存する古代ギリシャ喜劇・悲劇は殆ど読んでいる。本作はソフォクレスの悲劇「オイディプス王」をピエル・パオロ・パゾリーニが映画化した野心作。前半は神話・伝説からの内容に則り、後半の4割はほぼ原作通りの内容である。

僕は30年ほど前にLDを買って初鑑賞、今回もそれをブルーレイに落としたものを見た。

古代ギリシャ国家テーバイの王ライオスが子供が自分を殺し、妻との間に子を設けるという神託を聞き、生まれたばかりの息子を捨てさせるが、依頼させた男が赤子を殺さない。この赤子は子供を欲しがっていた隣国コリントスの王夫婦の子となり、オイディプスと名付けられる。
 しかし、自分が実子ではないと聞かされた彼(フランコ・チッティ)が神託に頼ったところ、テーバイ王と同じ内容の神託を受けるが、彼はコリントスの王の事と勘違いし、王殺しを起こさぬよう国を離れる。
 スフィンクスが国を荒らすのを苦にするテーバイ王が信託を聞きに移動中に、オイディプスが遭遇、争いになって従者共々殺してしまう。その後スフィンクスを殺したオイディプスは、王たる夫を失った妃イオカステ(シルヴァーナ・マンガーノ)に迎えられて、テーバイの国王として君臨するが、預言者テイレシアスに事実を伝えられる。
 息子と近親相姦したと知ったイオカステは縊死し、オイディプスは自らの眼を潰して盲(めしい)の乞食として放浪することになる。

この母との関係を基にエディプス・コンプレックスという精神分析用語が生れ、或いはスフィンクスの有名な謎々が知られるように、「オイディプス」そのものの物語は知らなくても、日本人にもある意味お馴染みの人物と言って良い。

この映画は、始まりと終わりに現代イタリアの挿話を置いて古代ギリシャの悲劇をサンドウィッチにしていることが特徴的。現代の部分は、現代版オイディプスの扱いで、どうもイタリア王政が終戦後に無くなったことを表現しているらしい。この辺りは「奇跡の丘」(1964年)でキリストを革命家のように見せた共産主義シンパのパゾリーニらしい表現で、より先鋭化した印象を覚えさせる。

パゾリーニは、例によって(どんな古典をベースにしても)現代との間に通用性を持たせるかのように、リアリズム基調で扱うが、僕は寧ろ“大昔も実際こんなものであったのではないか”とタイム・スリップした気分を味わってしまう。これがこの時代のパゾリーニを見る楽しみと言って良い。
 インドネシアのケチャ、日本の雅楽のような、古今東西多種多様の音楽を縦横無尽に使って野趣あふれる描写に横溢、作品の理解度は7割くらいであろうが、僕は相当満足するのである。

ドニ・ヴィルヌーヴ「灼熱の魂」も現代版オイディプスでしたね。

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この記事へのコメント

2019年05月01日 10:14
その年に買い始めた「SCREEN」の批評家ベストテンの1位だったと記憶しています。観に行きましたけど理解はしてなかったでしょうネ。でも、退屈はしなかったと思います。
今だとどうなんでしょう?
パゾリーニの中では多分分かりやすい作品だと思いますが。
オカピー
2019年05月01日 22:21
十瑠さん、こんにちは。

>ベストテンの1位
【キネマ旬報】でも1位でした。同時代的に相当迫力のある作品で、これがあったのでフェリーニ「サテリコン」が生れたような気がしますね。

>パゾリーニの中では多分分かりやすい作品だと思いますが
話は全然難しくないですが、凄味が解りにくいという意味での難しさがあったように思います。それでも、この時代のパゾリーニの野趣には脱帽するしかなく、高得点を出さざるを得ないんですよね。
モカ
2019年06月14日 21:00
こんばんは。これってそんなに評価されていた作品なんですね。
映画雑誌ってあんまり読んでなかったのに、何を思って観にいったのか今となって
は忘却の彼方です。
多分、ドアーズが好きだったのでオイディプスコンプレックスって言葉に惹かれたの
かもしれません。その後、めげずに「ソドムの市」でしたか?
観た記憶があります。あれは気持ち悪かった! 
で、それから随分たってナンニ・モレッティの「親愛なる日記」を観たら、モレッティがベスパでローマの郊外の殺伐とした道路に行って、ここがパゾリーニが惨殺
された場所だと言ってました。 
ああいう映画を作る人はこんな所で惨い殺され方をするんだと、ソドムの悪夢がよ
みがえりました。
あ、今思い出しましたが、アポロンは目つぶし?目玉くり抜き?シーンがすごいと
かいう噂があったような気がしてきました。
若い娘がそれに惹かれて観に行くってのもどうかと思いますが・・・
当時の風潮として、なんかこういうのを観るとちょっとは賢くなると思っていた
のかもしれませんね。 
理解できない本を読もうとしたり、若気の至りってやつですわ。
オカピー
2019年06月15日 21:23
モカさん、こんにちは。

>ドアーズ好き
オイディプスコンプレックスというのは「ジ・エンド」ですね。僕は後年「地獄の黙示録」で大きな音で聞いて気に入って、レコードやCDを買い漁りました。「ハートに火をつけて」はリアル・タイムで知っていましたが、年齢が年齢でしたのでね。

>「ソドムの市」
ギリシャ悲劇から始まる世界古典文学巡りもマルキ・ド・サドは避けるべきでしたねえ。「アラビアン・ナイト」辺りから嫌な予感はありましたが、あんな映画を作る人にはああいう悲劇が待っているのだと僕も思いましたよ。

>目つぶし
目つぶしでしたね。今見るとさほどではないですが、50年までは残忍という印象を残したでしょう。

>若気の至り
まだ中学生くらいだったのでは?
僕も中学の時何故かパゾリーニの「カンタベリー物語」を見ました。尤も何の前情報もなしに見に行ったのですが。原作は高校に進学してから読みましたよん。
モカ
2019年06月16日 23:01
中学生? せめて高3ぐらいの気がしますが。
 誰と観に行ったか、まったく記憶になくて昨日から悩んでおります。
これは一人では行かないと思う。 たぶん女友達ともいかない。
ということは? この映画は年齢制限とかあったんでしょうか?
流行りそうにないから配給会社が2本くらいしか輸入しなくて、関西に回ってくるのに
3年くらいかかったとか・・・
カンタベリー物語って男二人が馬に乗ってウロウロするやつですか?
ま、パゾリーニはどうでもいいです。
次は「ドアーズ/まぼろしの世界」にお邪魔いたします。
これ2回観たんですが忘れてしまって、明日でも借りに行ってきます。
消したくない記憶が消えるので困っています。

この頃そういうのありました? 
オカピー
2019年06月17日 19:03
モカさん、こんにちは。

>年齢制限
なかったと思います。日本は暴力程度によってレイトを決めるという習慣が近年までなかったです。1976年まで成人映画と一般映画の区分しかなく、前者は純ポルノだけでしたね。現行のレイティング制度が確立してからまだ20年くらいでしょう。

>関西に回ってくるのに3年くらいかかったとか・・・
名画座ではなかったですか?
 名画座のないわが群馬ではロードショーと言っても二本立てで、東京などよりひと月近く遅れることも少なくなかったです。ロードショーと名画座の間くらいの感覚。だから映画に関しては東京に憧れました。

>男二人が馬に乗ってウロウロ
それは「デカメロン」で、その後が「カンタベリー」です。たまたま「デカメロン」を最近見直したので分かりますが、さもなくばどちらがどちらか区別が付かない。

>「ドアーズ/まぼろしの世界」
お待ちしております^^

>消したくない記憶が消えるので困っています。
亡くなった両親の声を頭の中で再構築できず、呆然としたことがあります。嫌いだったわけではないのに。

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