映画評「羊と鋼の森」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・橋本光二朗
ネタバレあり

純文学、特に戦後のものはおよそ映画に向いていないので、芥川賞受賞作も殆ど映画化されたことはない。現在小説で一番映画化に向いているのは本屋大賞絡みで、大賞受賞作の大半が映画化されている。本作は女性作家・宮下奈都が2016年に本屋大賞を受賞した同名小説の映画化。

北海道の山地で育った若者・山崎賢人が、高校のピアノの調律に現れた三浦友和の仕事ぶりに触発され、音楽の素養はないものの、卒業後調律の学校に通い、三浦氏の楽器店に勤め始める。しかし、学校を卒業しただけで顧客が満足するほど甘い仕事ではなく、先輩・鈴木亮平について仕事を学ぶ。
 とは言え、いつまでも付いているわけにも行かないわけで、やがて姉・上白石萌音と妹・上白石萌歌の姉妹にも一応の信頼を得るところまで行くが、萌歌がピアノを弾けなくなりそれを見た姉もピアノから遠ざかったことにショックを受ける。自分が姉好みの調律をしたせいと思ったのである。
 僕の理解するところでは、天才肌のように見えた萌歌が見かけ以上に繊細で(恐怖か何かの理由で)ピアノに向かうと指が動かなくなることがあり、姉がピアノを弾くことに疑問を持ったというのが実際らしい。
 さて、鈴木先輩が幼馴染の仲里依紗と結婚することになり、披露宴のピアノの調律を任せられることになる。演奏者はピアノへの思いを再確認した萌音で、山崎君は俄然張り切り、無事大役を果たす。妹・萌歌はピアノ調律に自分の未来を見出す。

ピアノ調律に苦闘する若者が成長していく様子を、ピアノ演奏をめぐって目に見えない葛藤があった姉妹の顛末を交えて、描いているわけで、最終的に若い三人が克己し自分の目指すところを確立していくお話になっている。
 さすがに本屋大賞受賞作をベースにしているだけあって、お話のバランスが取れ構成がなかなかしっかりしていると感じる一方、清涼そうな森林の風景描写に新鮮な気持ちが味わえて相殺されるとは言え、登場人物たちの成長ぶりや波乱のし方が“朝の連続テレビ小説”を観ているような、即ち些か陳腐な印象がなくもないのである。

ピアノの調律が何故必要か、どのような仕事かという点で興味をそそるところ多し。全体としては爽やかな印象が持て、後味が大変良い。

一昨日上げた「ラブ×ドック」で吉田羊と吉田鋼太郎が共演していたのを思い出す。羊と鋼だもんね。

この記事へのコメント

浅野佑都
2019年04月11日 17:51
  これは、原作を読みまして、ちょっと、「船を編む」に似ている感覚もあるにはあったのですが、なかなかの感動作で、ぼくも読みながらページを濡らすようなことも無きにしも非ずでした・・(笑)

 もとより、本屋大賞のコンセプトは、「書店員が顧客に一番読んでほしい本」であり、当然、読書好きと思われる本屋で働く人々(多くが20~30代の若者)が、自分と同年代のお客に読ませたいと思う本となると、やはり、こういう形になるのかなと・・。

今の若者は、幼い時からすぐにリセットしてやり直せるようなRPGで育っていますからね。とてもじゃないですが、「失われた時を求めて」や「ユリシーズ」のような超大作はお呼びじゃないでしょう(笑)
そのくせ、短い間隔で終わる続きものならば、「ファイナルファンタジー」に代表されるように、何十巻と連なろうがシーズン○○に及ぼうが一向に飽きもせずです(笑)

彼らをターゲットとする以上、朝ドラのように、短い時間の中に小さな起承転結を必ず付けてゆく展開にならざるを得ないと思うのですね・・。

 僕自身は新聞小説風だな、と感じたのですが、プロフェッサーが忌みじくも、朝の連続テレビ小説風と喝破されたのには大いに同調しました!
新聞小説には、古今東西、大傑作もあるわけでして、やはり、これはNHK朝ドラ的展開というべきでしょうね・・。

 中学生のころは、背伸びして買った分厚い本と格闘するように読んだものでして、机の上に投げ出しては暫くしてまた手に取りの繰り返しで、やっとこさ読了したときは暫し感動したものでしたが、今や、いかに読者に飽きさせないかが成功の分かれ目なのでしょう!

 橋本さんが大阪市長時代に、お金を生まない伝統芸能の文楽に助成金は出せぬ、と切り捨てたのを思い出しました。
オカピー
2019年04月11日 21:54
浅野佑都さん、こんにちは。

>原作
僕も最近は多少新しい小説に手を出そうかと思い、映画版と比べる目的で昨年も「八日目の蝉」を読んだりもして、大衆小説は大衆小説なりの訴求力を持っていると感心することも多いですね。硬派の僕も侮ってはいられません。

>「失われた時を求めて」や「ユリシーズ」
どちらも長いだけでなく、意識の流れにより小説の可能性を探った小説群で、必然的に映画化には向いていないわけですが、東大・京大辺りの文学部の学生でもなければまず読まないし、読み終えることはできないでしょうね。

>短い時間の中に小さな起承転結を
その言い方は非常に解りやすい。一定のリズムで見どころが訪れるのはTV映画の作り方です。

>分厚い本
今年はディケンズで一番長い「デイヴィッド・コパフィールド」を遂に読みました。しかし、当時は純文学でもディケンズは現在の基準なら大衆小説です。だから、長くても余り苦痛にはならない。

>読了したときは暫し感動
これは僕もよく味わいますねえ。カントやヘーゲルなどの難解哲学書などでは“自分を褒めてあげたい”という気になりますよ^^

>伝統芸能の文楽に助成金は出せぬ
文化的保守の僕は、全く怪しからんと思いましたね。客は集められないでしょうが、文楽の演目には大変優れて、面白いものが多いですよ。

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