映画評「永遠のジャンゴ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年フランス映画 監督エチエンヌ・コマール
ネタバレあり

ジプシー(最近はロマなどとぼかされることが多いが、映画の中でこの言葉が使われているのに倣って僕も使う。ロマはジプシーの一部にすぎないので、別の差別を発生させてしまう)出身でそれらしい野趣あふれるギター・テクニックとメロディーで知られるジャンゴ・ラインハルトの主人公に据えた映画である。
 ラインハルトと言えば、AMAZONもなく東京にも住んでいなかった時代、アメリカへ出張した折にベスト盤のCDを買ったことがある。曲としては「ルシアンの青春」(1973年)の主題曲になった「マイナー・スイング」しか知らなかったが、彼のオクターブ奏法が好きだったのだ。

1943年頃超絶技巧のギタリストとして既に名声を博していたラインハルト(レダ・カテブ)は、ジプシーを迫害し始めていたナチスによりベルリンでの公演を迫られるが、非常に厳しい制限があり、かつ生命の危険も無視できないのでスイスに逃げる算段をする。その準備をしたのは彼の音楽に命を救われた思いのあるフランス女性ルイーズ(セシル・ド・フランス)である。ラインハルト夫人(ベアタ・パーリャ)は彼女を嫌っているが、結局はその勧めに従ってマネージャー的な老母や妻と共に国境を目指す。
 しかし、手間取っているうちにナチスに発見され、今度は伯爵の晩餐会で演奏しろと命令される。例によって黒人音楽的なものは禁止である。ここにもナチ高官の情婦になったふりをするルイーズの画策があり、会場でもめ事を起こして時間稼ぎをし、その間にレジスタンス仲間が破壊作戦を実行する算段。ラインハルトとその劇団はご法度の「マイナー・スイング」を演奏し、作戦は成功する。
 怒ったナチスはジプシーのテントを尽く破壊するが、その間にラインハルトは国境を超えることに成功する。ドイツの敗戦直後、彼は亡くなった無数のジプシーに向けて自作のレクイエムを指揮する。

不勉強にもラインハルトがクラシックと見なせる楽曲を書いていたのは知らなかった。いずれにしても、この楽曲はその一度しか演奏されず、その楽譜は現在散逸してしまったらしい。冒頭で僕が敢えて“ラインハルトの伝記映画”と書かなかったのは、この映画が彼の人生そのものを描くことに重心を置かず、彼の知られざる秘話からジプシーの悲劇を浮かび上がらせようとしていると感じたからである。
 実際、この映画の最後の字幕は、ラインハルトの長くない人生(1953年、43歳で逝去)やその関係者について一切触れず、レクイエムの演奏とその楽譜の運命だけを記している。だから、彼のファンとしては些か残念なクラシック曲で終わるのもやむを得ない。

ユダヤ人以外のナチス迫害を描いた点が勉強になるとは言え、映画としては些か平板で物足りず、晩餐会の向こうで進行しているはずの破壊作戦によるサスペンスを観客に感じさせようとした終盤の場面が映画的に収穫と言える程度。破壊活動を見せず晩餐会だけを描写しているのが良い。これはヒッチコックの言う“観客だけが知っているが故に感じるサスペンス”に相当する。

★一つ分を彼らの曲に進呈致します。

“ジプシー”という言葉が出て来るので、一時期山口百恵の「謝肉祭」が封印されていた時代がある。ジプシーという言葉に対する誤解が解けたせいか、近年解禁されたらしい。

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