映画評「心と体と」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年ハンガリー映画 監督イルディコー・エニェディ
ネタバレあり

ベルリン映画祭金熊賞(最高賞)を受賞したハンガリー映画。

首都ブダペストの食肉処理場の臨時品質検査官として、アスペルガー症候群と思われる状態を示す美人アレクサンドラ・ボルベーイが赴任する。財務部長ゲーザ・モルチャーニは部下として関心を示すが、一般の人間的な反応を示すことをしない彼女への対応に困難を感じる。
 ある時動物用の媚薬が盗まれるという事件が起き、犯人捜しの為に心理学者が派遣されることになる。その調査によりアレクサンドラとモルチャーニが全く雌雄の鹿が交流する全く同じ夢を見ていることが判明、これにより二人はぎこちないながらも接近するようになる。
 会社の同僚が揶揄するように、彼女はロボットのようにマニュアル通りの反応しかできないのだが、それでも人間的な接触を望んでいる。他方、女性関係を断って孤独に陥っていた初老の部長も彼女に対し自然な性的関心を持ち始める。

孤独感を禁じ得ない男女の仲を取り持つのが雌雄の鹿が行動する共通の夢である、という狙いが面白い一種のファンタジーで、ヒロインの設定が特殊ではあっても、現在世界のどこでも少なからず存在するであろう孤独な人々に優しい目を向けた普遍的な内容と言うことができると思う。

映画的に巧みなのは、内容把握ができかねる序盤のうちは牛を殺して捌く生々しい場面と著しい対照を成す、静謐な鹿の場面を多く出して来るのに、鹿の場面の意味を解らせた後は鹿の場面を殆ど出さず、鑑賞者に夢の内容を想像させる手法を取っていることである。想像が鑑賞者の感情を強めることを知っている者の作り方と言って良い。

孤独な人々を扱う作品はどうしても画面も重苦しくなりがちであり、親しみにくい印象が本作でも免れないが、ロボットが人間に変わるような幕切れにホッとさせるものがある。その直前ロボットのような彼女が血を出す終盤の場面は非常に示唆に富む。
 彼女のアスペルガー症候群的症状は一種の記号であるから、実際の症候群の人々がこのような形でごく一般的になることはない…と批判しても意味があるまい。

ダウンタウン・ブギウギ・バンドの二枚組CDを借りて来た。彼らに「身も心も」というそれなりに有名な曲がある。この映画のタイトルに触発されたわけではなく、この映画を観る日に借りて来たというのが面白い。

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