映画評「羊の木」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・吉田大八
ネタバレあり

僕ら昭和半ば世代には懐かしい漫画家・山上たつひこのコミック(作画はいがらしみきお)の映画化。

魚津市ならぬ魚深市が国による新しい仮釈放システムに則って、6人の殺人犯を新住民として極秘に受け入れる。本来の犯罪者更生に加え、人口減少の抑制を目的とした仕組みである。その極秘プロジェクトの担当するのが中堅役人・錦戸亮で、市長と彼以外に知る者はいない。
 6人の顔ぶれは、元ヤクザでクリーニング店に配置される田中泯、夫を過失で殺し介護施設に配置される優香、DVの恋人を殺し清掃員になる市川実日子、理容店に配置される水澤紳吾、釣り船に乗るいかにもチンピラの北村一輝、過剰防衛による過失致死を起こし運送会社に勤める松田龍平である。
 一番何かをやらかしそうな松田君も北村の軽犯罪への誘いも断るなど真面目さを示し、錦戸が舞い戻って来た病院の元事務員・木村文乃などとパワー・トリオのバンド練習にも加わってくる。他のメンバーも綱渡り的なところがあるも、真実に気づき始めた雇い主たちに受け入れられたりする。

ヒューマンな映画・・・とすっかりのんびりした気持ちで観ていると、被害者の父親が松田君を探しに市役所を訪れるところから俄かにムードが変わり、彼を何とか悪の道に引きずり込もうと図る北村が絡むことでサイコ・ホラー的な方向に進んでいく。
 これに魚深市伝統ののろろ様の祭という土着信仰が加わって一種独特な、悪く言えば挨拶に困るような面妖な作品になる。

全体として三つくらいの作品を観ているような感覚で、映画のトーンは一貫すべきという、僕がずっと言ってきた原則から言えばかなりまずいのだが、前半のほのぼのとした一連の場面においてもサスペンスを沈潜させていると理解できる作り方なので、喜劇タッチが突然悲劇タッチに変わる韓国恋愛映画のような悪い印象は薄い。十分許容範囲で、全体の訴求力を考えると大衆映画として及第点と言えると思う。

ただ、何かやりそうな松田君がやはり何かをやるというのは配役に捻りがない感じがしてつまらない。終盤の警察の行動も考えられないことが幾つかあり些か興醒め。

アーノルド・シュワルツェネッガーが全くアクションを見せないホラー映画に批判があったが、そういうのを固定観念・思考停止と言う。アクション俳優にアクションをさせないところに捻りの面白味があるのだ。

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  • 羊の木

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  • 「羊の木」

    Excerpt: 今年は私にしては珍しく、邦画をよく観ている。今年に入ってからこれまでの鑑賞比率は、洋画とアジア映画と邦画がほぼ同じ本数なのである。こういうこともあるんだなぁ。そしてこの「羊の木」である。私にとって錦戸.. Weblog: ここなつ映画レビュー racked: 2019-01-15 12:20
  • 「羊の木」☆人は見かけによらない

    Excerpt: 猛吹雪の中、地下鉄なら電車が止まらないのをいいことに、のん気に試写会へ行ってきたyo 奇想天外な設定の邦画は当たりハズレが極端に出るけれど、最初から最後までざわざわさせて目が離せない映画でなかなかに.. Weblog: ノルウェー暮らし・イン・原宿 racked: 2019-01-24 09:09