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zoom RSS 映画評「M」

<<   作成日時 : 2018/11/18 09:09   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1931年ドイツ映画 監督フリッツ・ラング
ネタバレあり

ドイツ時代のフリッツ・ラング、即ち細君テア・ファン・ハルボウと脚本を書いた時代の作品は実にワクワクさせられて好きだ。本作は1980年頃国立フィルム・センターで初めて観て、特に序盤不気味さに圧倒された記憶がある。

1920年代末にドイツで実際に起きた連続殺人事件をモチーフにしたお話。
 おもちゃで誘われた女児が次々と殺される事件に町中が震えあがっている。今日もまた風船につられた女児が殺される。市民からの苦情に追いつめられた警察は、犯罪組織を締め上げることにする。
 “これでは飯の食い上げ”と困ったある犯罪組織は、警察より先に犯人を探し出さそうと乞食の群れを使う。間もなく盲目の風船売りが前に殺された少女に風船を売った時に聞いた「ペール・ギュント」の曲を再び同じ口笛で聞いて犯人を特定すると、乞食グループが追いかけて遂にあるビルの一室に追い込む。
 かくして、一味は捕まえた犯人(ペーター・ローレ)を地下室で死刑ありきの人民裁判にかける。

内容的に興味深いのは、犯罪組織が警察の代わりに犯人を追い詰めるという設定。一般であればこちらが英雄的に扱われるのだろうが、本作は屈折しているのである。犯人を追い詰める犯罪組織にリンチされかけたところへ警察が現われて精神異常が疑われる犯人を救い、犯罪者は悪に過ぎないと思わせて終わる。
 ラングたちが何故こんなひねくれた設定にしたかと言えば、犯罪組織に台頭しつつあったナチスを投影するという意図があったかららしい。ナチスは犯罪者と言っているも同然なのだから痛快と言えば痛快。1/4ユダヤ人の血が混じっているラングはこの後フランスに逃げてアメリカへ渡る。

見せ方はさらに素晴らしい。
 クレジットの後、歌を歌いながら遊んでいる少女たちを俯瞰で捉えるところからして魅力的で、本作では全般的に俯瞰がうまく使われている。その歌が連続殺人に関する歌で、そこはかとなく不気味さを漂わす。
 続いて、一人の少女がまりを張り紙がされている壁に向けて投げていると影が近寄って少女に声をかける、というところが凄い。張り紙は連続殺人犯に関するもので、そこへ犯人が近寄ってくる。犯人を影だけで表現しているのに魅了される。
 その後に続く、まりが転がり風船が宙に浮く、という殺人を暗示をするショットには文字通り痺れた。モノクロ映画らしく物が声高に主張するのである。犯人がコートにチョークでM(殺人者MörderのM)の文字を付けられるのも極めて映画的。手にMの文字を書いて転写するという方式が楽しい。

詩劇「ペール・ギュント」の伴奏曲「山の魔王の宮殿にて」の使い方も巧い。トーキー初期だからこそ生まれた発想なのかもしれない。

プリンセス・プリンセスにも浜崎あゆみにも関係ないデス。関係あるのはグリーグです。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
小学校の女生徒が次々に殺される。 警察が必死に捜査しても手がかりがつかめない。 浮浪者たちが警察に協力するうち、容疑者が一人浮んできた。 浮浪者の青年が、容疑者の背中に”殺人者”の頭文字のMをチョークで書き残す。 ...続きを見る
象のロケット
2018/11/18 23:23

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>「ペール・ギュント」の伴奏曲「山の魔王の宮殿にて」
これがたいへんよく効いていましたね。劇中でぴったりな曲、それも口笛でね。
ペーター・ローレもよかったですし、このころのモノクロ映画の良さを感じる絵作りでした。話も、犯人も悪いけれども、追い詰めていく方も不気味に見えるんですが、当時の世情への風刺も込められていたんですね。
劇中で子供たちが遊びながら歌っている歌が、当時のドイツで捕まった連続殺人鬼の名前を織り込んだへんな歌だったのを覚えています。こういう映画を見て、犯罪実話を追っかけたりしましたよ。
nessko
URL
2018/11/18 16:16
nesskoさん、こんにちは。

>「ペール・ギュント」の伴奏曲「山の魔王の宮殿にて」
題名は知らなくて有名な曲。色々な人が様々のところで用いているようですね。
この映画の影響が結構あるのではないでしょうか?

>ペーター・ローレ
フォークロック歌手のアル・スチュワートが「イヤー・オブ・ザ・キャット」に、“悪計をたくらむペーター・ローレのようにぶらつく”と歌っているのは、この作品からの着想かもしれません。
 いずれにしても、ローレの度胸のなさそうな犯罪者というキャラクターがこの映画で出来上がったのでしょうね。

>犯罪実話を追っかけたり
切り裂きジャックとか(ちと古いか)、「サイコ」のモデルになったエド・ゲインとか、近年映画にもなった通称ゾディアックとかですか?
 そう言えば、「イット」の時にジョン・ウェイン・ゲイシーの名前を挙げられていましたね!
オカピー
2018/11/18 21:39

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