映画評「散歩する侵略者」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・黒沢清
ネタバレあり

黒沢清のホラー群は哲学ホラーと言うべき独自性があるが、宇宙人が出て来てもSF性が薄い(ショートショート的SFと言うべきか)この作品はどうか。

イラストレーターの長澤まさみが夫・松田龍平が別人の如き虚ろな人間になっているのに驚く。別の場所では肉親を惨殺した女子高生・恒松祐里がふらふらと歩き出し、やがて病院に隔離される。そこへ自らを宇宙人と称しジャーナリスト長谷川博己をガイド(協力者)にした男子高校生・高杉真宙が現われて合流する。豹変した松田も勿論その仲間である。
 彼らの目的は地球侵略であるが、その達成の為に地球人の持つ概念を奪う。概念を奪われた人間は別人のようになる。

前川知大の戯曲という原作はあるが、この作品はいかにも黒沢らしい哲学映画である。扱われる概念は、家族、所有、仕事、自分と他人という実存の問題、愛、etc。
 所有(欲)の概念を奪われた引きこもりの若者が外に出て話すのは正にジョン・レノン「イマジン」そのものである。所有がなければ戦争も国境もない。これは僕がずっと言ってきたことで、所有欲否定を前提としない(一見似ている)共産主義とは大分違う。また、実存は形而上学の中でも最も重要な哲学の項目だから、「黒沢監督、やっとるわいっ!」と嬉しくなる。

本作で一番重要視される概念が愛で、最後に夫に色々と愚痴を言いながら愛そのものだった妻から松田が愛を奪うと、宇宙人は侵略を途中で止める。

原作者か黒沢監督もしくはその両者は人類など滅んでしまえと思うくらい厭世的であると同時に、人間に大いなる希望を持っている。宇宙人でも現れない限り人間はもう堕落する一方なのか、という思いがこのお話の背景に揺曳する。
 そんな作者の思いが揺曳するのが哲学映画として楽しめる所以であるが、最後に出て来る小泉今日子の女医が直截に映画の主題を説明しまうので「つまらないなあ」と思いつつ、主題の把握どころか、まともに文章を読めない人が多いと言われる昨今だけに、こういう台詞が必要なのかもしれない。先日の「美しい星」と好一対となる非SF的哲学SFと言うべし。

家族のしがらみは、長短両方あると思う。僕はいざという時に当てになるとは限らない友情より家族愛を信ずる。

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