映画評「サバイバルファミリー」(2017年)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・矢口史靖
ネタバレあり

矢口史靖監督はご贔屓だから、この新作も期待して見た。

仕事一筋のサラリーマン小日向文世、のんびりとした鹿児島出身の妻・深津絵里、現代物質文明に埋没している大学生の息子・泉澤祐希と高校生の娘・葵わかなという4人からなる一家。
 ある朝起きると停電で、その他の公共的ライフラインは全滅状態。彼らの住んでいるマンションだけでなく、どうも東京全般らしい。すぐに復旧するという希望も空しく、やがて学校も会社もお休みとなり、彼らは妻の父・柄本明のいる鹿児島に自転車に向かうことになる。時に不協和音を生じるが、水も食料も尽きて生き延びる術を学ぶに連れて、家族は一つにまとまっていく。
 しかるに、予定していた川の橋がなかった為に筏を作って渡ろうとした時、急な豪雨により父親が流されてしまう。3人になった家族はSLに救われる。窓から外を眺めていると、発煙筒を炊いた父親が目に入る。かくして何とか鹿児島の実家で自給自足の生活を続けて2年半後突然電気が復旧、彼らは物質社会に戻っていく。

監督には3・11直後の計画停電やガソリン不足による小パニックが頭にあったのかもしれない。本当に現代文明は、ライフラインのダメージに弱い。子供の頃から僕は「便利は不便」と言っているが、本作では正にそのようなことが起こる。しかし、人間はそれが長く続けば、次第にしたたかになっていく。悪いことばかりではない。本作のサバイバル術がどこまで実際的なのか解らないが、観ていて一通り楽しめ、参考になる。

映画サイトで「復旧後の描写は不要」というコメントを目にした。コメントの主は、作者は自給自足的な生活に理想像を見る現代文明論の映画としたと理解したようだが、残念ながらそれは作者の文明論ではない。そうした原初的な生活を頭にたたき込んだ上で物質文明を生きるのが現代人の理想と言っているのである。
 子供たちは、あれほど嫌っていた祖父が送ってくる魚が大好物となってい、きちんと挨拶して出かけられるようになっている。両親も子供たちに尊敬される人物になっている。作者の言いたいことはここに集約されているのだから、この場面なしにはどうにもならぬ。
 “家族の再生”をテーマにしているとも言えるが、それだけの理解ではつまらないし、そこまで型通りの作品とは思えない。

発煙筒を無駄に使わないのが後段で生きてくるなど伏線もうまく回収されているのだが、個人的に勝手に受けたのが、父親がその発煙筒をたいて家族に発見される奇跡の場面で、父親がもたれているトラクターが何と“イセキ”製。“イセキ”で“奇跡”というわけなのか?

一見今までの矢口作品とは傾向が違うように見えるが、これもまた「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」などと同様に、全くの素人が慣れないことに挑戦していくお話という大いなる共通点がある。登場人物の名字がありふれたものばかりというのも作者の普遍性への狙いを感じさせる。

しかし、矢口監督ならではのショットの繋ぎにおける面白さがさほど感じられず、不満が残る。ご贔屓監督故に却って評価が厳しくなる。

水爆を空中で爆発させるとこういう現象が起こると言いますが。「明日ありと思う心の徒桜夜半に嵐の吹かぬものかは」というやつですな。

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