映画評「岸辺の旅」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本=フランス合作映画 監督・黒沢清
ネタバレあり

タイトルや紹介されている画像からはおよそ黒沢清らしくない内容を想像させるが、蓋を開けてみれば、ホラーではないがオカルトであった。湯本香樹実(ゆもと・かずみ)の同名小説が原作。

ピアノ教師・深津絵里が家で料理をしていると、3年前に失踪した夫・浅野忠信が突然現れて「(自分は)死んで蟹に食われてしまったので、死体は見つからない」と言う。夢かと思った翌朝、やはりそこに厳然といる彼は3年の間にお世話になった人を訪問する旅に出ようと彼女を誘う。
 最初に会う新聞店経営者・小松政夫もまた死人であり、この世の未練を断ち切ると姿を消し、彼女は荒れはてた新聞店を見出す。
 次なるは食堂の夫婦で、細君の30年前に死んだ妹の亡霊との遭遇譚。
 さらに、浅野が講師のようなことをしていた山村では、細君に未練のある男の亡霊が現れて、彼に説得されて消えていく。
 そして旅の最後に、夫との愛情を確認した彼女が百枚の祈願書を焼くと、夫は消える。

多くの方が仰っているように、岸辺は“三途の川”の岸辺、彼岸と此岸のインターフェースを形成する岸を指しているのだろう。境界線に立っているから、生者と死者が平然と共存しているのである。
 これが本作の特異なところで、既成概念では関連者にしか見えない死者が実体をもって存在し、例えば浅野は生者の営む食堂を手伝うことができたりするのが大変興味深い。それ故に、却って生者には死者と生者の区別がつかないという現象が起き、益々面白い。

通常死者が現世に未練を持つため成仏できないのだが、本作では生者が死者に対して未練や後悔を持っている為成仏するのを妨げているという特徴的な側面もある。厳密には、生者と死者とが互いの未練・後悔を消し合った時に成仏できるように見える。為に本作は、お話が進むにつれて二人が愛情を確認し合う美しい恋愛映画と昇華していくのである。

その幽霊話の間に出て来る夫の不倫相手・蒼井優とヒロインが対面する場面が一番ホラー的で、彼女は「いっそ(彼が)死んでくれていたほうが良い」と平然と言って、「夫は生きています」と対応するヒロインを圧倒する。蒼井優、実力発揮の巻と言うべし。本作唯一の現実的場面として鮮やかなコントラストをなすと同時に、ヒロインの夫の死を受け入れる覚悟はここから始まるように思える。

1980年代以降現れた、我が国の怖くない幽霊映画を代表する一本となるだろう。

吾輩、両親に対し後悔だらけ。最近この手の映画が多く、観ているのが結構辛い。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年10月10日 08:12
人生は後悔だらけでありますよ。
オカピー
2016年10月10日 21:17
ねこのひげさん、こんにちは。

黒澤明に「我が人生に悔なし」という作品がありました。
波乱の人生だから言える言葉なのかな。僕らのように小市民的に過ごしている人間には後悔が多いのでしょうねえ。
しかし、死んだ人間あるいは人間の死に関する後悔は辛いです。

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