映画評「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年フランス=スイス合作映画 監督ステファニー・アルゲリッチ
ネタバレあり

メーカー在籍中のこと、取引先の東芝絡みで東芝レコードの営業数名がクラシックCD全集を売り込みにやって来た。クイズ形式によりクラシックに詳しい人に売りつける算段で、僕が8割かた答えたものだから先方に狙われたのは勿論、社内一のクラシック通ということになってしまった。僕の知識など音楽の授業レベルに過ぎないわけで、他の人が余りに知らなすぎるというのが実際。
 勿論、本作の主人公マルタ・アルゲリッチは、オーディオ雑誌やFM雑誌により名前だけはよく知っているが、まともに聴いたことはないのであった。

内容を全く表していない邦題が少なからずある中でも、このドキュメンタリーに付けられた邦題ほど内容から遠いケースは滅多にあるまい。
 この邦題を見れば、誰しもアルゲリッチのピアニストとしての側面にアプローチした作品と思うはずだが、実際は三女ステファニー・アルゲリッチが彼女の日常を追ったセミ・プライヴェート・ビデオに、大昔の彼女の演奏を捉えたフッテージが挿入されるだけ。
 
それも、華麗な男性遍歴を誇るアルゲリッチ女史の人生を綴ることで、三番目の夫であるスラブ系米国人のピアニスト、スティーヴン・コヴァセヴィッチを父に持つステファニー・アルゲリッチが反射的に自画像を描き上げようとした側面の方が強い。
 だから、最初の夫である中国系アメリカ人の作曲家ロバート・チェンとの間に生まれた長女イダ・チェン、二番目の夫であるフランス人指揮者シャルル・デュトワとの次女アニー・デュトワとの姉妹関係にも詳細に触れられる。

少女時代を一緒に過ごしながら父親の姓デュトワを名乗る姉と違って彼女が母親の姓を付けているのも彼女の人生スタンスを物語っている。父親は愛情をこめて彼女をブラッディ・ドーター(忌まわしい娘=原題)と呼ぶ所以の一つである。ステファニーが今頃になって父親に認知を求める一幕があるが、書類が揃わず苦戦する。

マルタの人生からステファニーの自画像を描き上げると同時に、ステファニーを中心とした家族の描写から逆にマルタその人の人間像が浮かび上がるという構図にもなっているので、クラシック音楽ファン、アルゲリッチのファンであるか否かにかかわらず、一般ドラマのように楽しめる人がいても不思議ではない。
 かく言う僕もそんな一人で、有名人の私生活が披露されるだけだから退屈しても仕方がないのに、案外興味深く観られた。

選択性夫婦別姓が初めて騒がれた頃、我が国与党同様、僕も家族の絆を心配した。しかし、別姓が絆を弱めるというのは幻想に過ぎないことを、本作のような欧米の映画を観るうち理解するようになった。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年03月13日 07:15
管理する側からすると、同姓の方が管理しやすいという事でしょう。
マイナンバーも然り。
何の役にもたたないと思っている人が80%いるそうです。
オカピー
2016年03月13日 20:29
ねこのひげさん、こんにちは。

>同姓の方が管理しやすい
僕も古臭い人間だから、家族は同じ姓の方がしっくりくるけど、武士の時代は儒教の影響で夫婦で姓は違っていたわけですし、実際には二十年もすれば慣れてしまうのでしょう。少なくともそれでダメになるような絆であるとしたら、日本人自体に問題があるということになります。

>マイナンバー
暴力団の資金洗浄に効果を上げるといいですが、個人的には口座と連結させたくはないですね。

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