映画評「ゴーン・ガール」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督デーヴィッド・フィンチャー
重要なネタバレあり。鑑賞予定のある方はご注意のほどを。

デーヴィッド・フィンチャーの作品群では映画的ムード醸成に唸らされた「セブン」(1995年)を一番買うが、本作の面白さも捨てがたい。

ライター上がりで現在は双子の妹キャリー・クーンと酒場を営んでいるベン・アフレックが、同業者だった妻ロザムンド・パイクとの結婚5年目の記念日に帰ってみると、家が荒らされて妻がいない。早速警察に連絡を取る一方、TVで呼びかけを行い、義理の両親が開いたパーティーに心配する人々が集まってくる。
 妻は有名な絵本か何か「完璧なエイミー」のモデルとなった言わばセレブ(有名人のこと)だから、マスコミや大衆が喰らいついて来る。有象無象の一人ではないのだ。映画サイト“Allcinema”でのnf氏の疑問はそこへの視点がすっぽり抜け落ちている。

この出だしは先日再鑑賞した「白と黒のナイフ」(1985年)と同工異曲で、次第に夫の妻殺しへの疑惑が深まって来るのだが、映画は半分の尺に達する直前でアルフレッド・ヒッチコックの「めまい」(1958年)よろしく突然種明かしをする。
 即ち、全て細君が夫君を刑務所に送り、あわよくば死刑にする目的を実現するための狂言であったのである。ここからは暫しロザムンドの工作模様と、警察が逮捕しに来るのが目に見えているアフレック氏が有能弁護士タイラー・ペリーに弁護を依頼し、妹キャリーと協力する様子とを、交錯させながら進行する。

ロザムンドはTVで夫君を見、夫を追い詰める為の自殺計画を止めてプランを180度変更、学生時代から彼女を追いかけている金持ちニール・パトリック・ハリスに頼る振りをしてその別荘で過ごし、今度はその彼を工作の末に殺すと自分は被害者然として夫の許に戻ってくる。

“Allcinema”での妊娠で収斂させた展開が気に入らないとのnw氏の指摘にも反論したい。確かに煎じ詰めると「ローズ家の戦争」(1989年)のシリアス版のような夫婦喧嘩のお話であるが、妊娠で夫君を全く動けないように縛り付けてしまうから、中盤から徐々に醸成されてくるブラック・コメディーとしての性格が鮮やかに完成するのではあるまいか。もっと一般的なドラマ作品でも、妊娠は、結婚をしたがらない恋人を結婚に向かせ、離婚したい夫の気持ちをも引き留める。そんな男性の行動心理を、換言すれば恐妻家の心理を、妻が夫と再び暮らす為に人殺しまでするサイコ映画の中に持ってくることで半ば揶揄するのである。これを面白がらずに何を面白がる? 【一瀉千里】を地で行くマスコミによる世論形成への皮肉よりこちらのほうが面白いはずである。 

妻が自分が死んでまで夫に復讐する気持ちは非合理的であり、敢えて言えば本作のストーリー展開上の瑕疵になりかねない箇所であるが、それが常識人の理解を超えるサイコの矛盾した心理なのであろう。

どちらかと言えば準主役的な役柄で幅広く活躍してきたロザムンド・パイクが悪女で主役を張った本作は特に地元アメリカで大好評(9月20日現在IMDb152位)、今後彼女の主演作が増えるかもしれない。ベン・アフレックは相変わらずパッとしないが、それが本作には生かされている。

不在の妻が浮気のムズムズが始まった夫君に命令カードを残すフランス喜劇ミステリー「殺人狂想曲」(1956年)が観たくなって来たなあ。この細君のカードには本作のメモと違って何の魂胆もないのだけれど。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年09月27日 06:32
サイコパスの心理を一般人の常識に当てはめて理解しようとするのは無理な話でありますね。
サイコとはこういうものだと思って観るべきでしょう。
オカピー
2015年09月27日 20:25
ねこのひげさん、こんにちは。

>サイコパス
「映画を評価する時、サイコを扱った映画以外では、突っ込むべき科学的要素(誤謬)は“行動心理学的におかしいか”にほぼ限られる」というのが持論。
サイコに常識は通じない。

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