映画評「her/世界でひとつの彼女」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督スパイク・ジョーンズ
ネタバレあり

「マルコヴィッチの穴」や「アダプテーション」で非常に楽しませてくれたスパイク・ジョーンズ監督の、これまた異色作である。前述二作は脚本を書いたチャーリー・カウフマンの貢献が大きいと思うので、自ら脚本を書いている本作は映画作家としての真価がより解りやすい筈である。一種の近未来SFなのであるが、一種の純文学的実験台的物語と言っても良い。

パソコンを使って代筆業をしているホアキン・フェニックスは、1年前に別居した妻ルーニー・マーラとの離婚を逡巡しているある時最新型AI(人工知能)であるOSに惹かれて購入、慰みを見出そうする。彼の事前の申告を基礎情報として起動したAIはサマンサ(声:スカーレット・ヨハンスン)と名乗り、コンピューターに収められた彼の情報からそのお気に召すままに行動、その結果彼は肉体のないサマンサに恋をし、ルーニーとの離婚を決意する。が、これは同時に彼のコンピューター依存的な性向への自覚のない決別を推進し、それを認知したサマンサは消え、出版社から彼の代筆した手紙をまとめた“書籍”が届き、長い友人である離婚女性エイミー・アダムズに慰撫してもらう。

サマンサとは何だったのか?
 恋愛代行業のように思えた彼女は、実は人間再生プログラムだったのではないか・・・そんな気がしている。さもなくば、パソコンに収められたドキュメントにより彼の内心をかなりのところまで理解していた筈のサマンサが、手紙集をコンピューターのアンチテーゼである書物として出版させる狙いが解らなくなる。そして役目を果たしたからサヨウナラをしたと解釈すると、人工知能の気持ちに切ないものさえ覚えます。尤もこれは確証のない僕の無責任な解釈で、全く違うのかもしれない。

先日の「ドン・ジョン」もそうだったように、バーチャルな人間関係に逃避する作品が目立ち始めたのは、やはりIT依存社会で陥りやすいディスコミュニケーションの弊害が既に現実化しているからではあるまいか。色々と面倒くさい実際の人間との交際より楽な擬似交際ができるのであれば弱い人間は逃げたくなるのが人情であろう。
 だから、形としては未来SFであっても、純文学的な角度から実験台的に人間の行動を見せた物語であると僕は考える。他人の心情を推し量って代筆するのは得意でも自分の心だけはどうにもならないのが主人公の人間たる所以、そうした普遍的な設定にジョーンズのアナログ派の感性が隠されているような気がする。

気持ち悪いという人が多いが、寧ろ逆説的に人情の機微にアプローチした佳作と言うべし。

「世界でひとつ」といった表現の方が気持ち悪いデス。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年05月17日 14:33
はるか昔、小松左京さんが地球を女たちに明け渡して、男どもは全員月に逃げ出して機械の花嫁と結婚するという短編がありました。
オカピー
2015年05月17日 20:23
ねこのひげさん、こんにちは。

>小松左京
40年くらい前小松氏の短編集を結構読みましたよ。
「物体O」とか「地球エージェント」その他。
ご紹介のお話はその中にありましたかなあ?

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