映画評「今晩は愛して頂戴ナ」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1932年アメリカ映画 監督ルーベル・マムーリアン
ネタバレあり

図書館ライブラリー・シリーズ。

ミュージカルを語る上で欠かせないエルンスト・ルビッチ監督の「ラヴ・パレード」(1929年)はどうも観ていない(観ていると思い込んでいた)らしいので、代わりにというわけではないが、同じ主演者モーリス・シュヴァリエとジャネット・マクドナルドによるミュージカル(シネ・オペレッタ)を観る。監督は実力派ルーベン・マムーリアンなので文句なしであるし、実際傑作。

まず、パリの市民たちの様子を捉える開館直後のシークエンスからご機嫌で、ルネ・クレールの「巴里の屋根の下」(1930年)「巴里祭」(1932年)を思い出せるのんびりした叙景が素晴らしいムード。クレール作を研究したものと思われる。生活音が音楽風になっているのもシュヴァリエ主演の映画にふさわしく、誠に楽しい。

彼が扮するのはその名もモーリスという仕立て屋で、関係者に責められて仕立て代をため込んでいる子爵チャールズ・ラッグルズに払って貰うために、一緒に住んでいる伯父の公爵チャールズ・バターワースの城に出かける。
 城では公爵の姪ジャネット(役名もジャネット)の婚姻が画策されているが、ふさわしい相手がいない。そこへ現れたモーリスが借金をばらされたくない子爵により男爵と紹介されたために一躍婿候補として手厚く接待されることになり、紆余曲折の末に二人は恋に落ちる。
 が、狩猟用の衣服を上手く作り過ぎたことから仕立て屋の正体が明らかになり、城から追い出されてしまう。しかし、諦めきれないジャネット姫がしがらみを振り切って彼の乗る汽車を追い、めでたしめでたし。

お話も相当楽しいが、マムーリアンの演出に惚れ惚れさせられる。“イズント・イット・ロマンティック”で町民たちが、有名な“ミミー”で城の人々がリレー形式に唄い繋いで行く場面における、マッチ・カット+オーヴァーラップによる繋ぎ手法が頗る洒落ていて断然素晴らしい。
 それ以上とも言えるのがヒロインが主人公を追いかけるシークエンスにおける汽車と馬の見事なカットバックである。列車を仰角で捉えれば馬も仰角で、車輪を捉えれば足を捉え、煙突を捉えれば頭をといった具合に積み重ね、映画的興奮を誘うのである。正に、リューレイ(流麗)・マムーリアンもといルーベン・マムーリアンならではの流麗なる描写と言うべし。

しかし、何か事情があったらしく、実力の割に余り作らせてもらえなかった監督で、1987年90歳で亡くなっているのに戦後まともに作ったのはたった二本。結果的に最後の作品となったミュージカル「絹の靴下」(1957年)を完成させた後、ミュージカル「ポギーとベス」(1959年)、大作「クレオパトラ」(1963年)と続けて解任され、以降お話が回ってくることはなかったようである。

ヒロインの伯母たる三老婦人がコロス(コーラス)風に扱われたり、台詞の掛け合いでは押韻しているところもあり、文学的にも興味深い。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月15日 07:22
完璧主義だったのかな?
あまりこだわりが過ぎると煙たがられますからね。
オカピー
2015年02月15日 20:11
ねこのひげさん、こんにちは。

どうだったのでしょうねえ^^
日本の三巨匠(黒澤・小津・溝口)もそれぞれ違った風にこだわりがあって、俳優の中には戦々恐々としていた方も多かったでしょうね。

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