映画評「ブルージャスミン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督ウッディー・アレン
ネタバレあり

ウッディー・アレン78歳にして益々意気軒昂なり。欧州での諸作は洒落っ気で作っていた感じがあるのに対し、久しぶりに本国に戻ったこの作品はあくまでシリアスなドラマである。と言っても「インテリア」(1978年)のように終始神妙な表情というわけではなく、シニカルなスケッチ描写により笑いを催させる箇所も多い。

金融詐欺で逮捕された実業家の夫アレック・ボールドウィンが自殺、一文無しになったケイト・ブランシェットが里子同士の妹サリー・ホーキンズを頼ってサンフランシスコにやって来る。高級服に身を包んできた彼女にとって、ずっと庶民的生活を営んできた妹は垢抜けず、付き合う男もガサツな連中ばかりで我慢ならない。インテリア・デザイナーになるための資金稼ぎの為にいやいや歯科医の受付係として勤め始めるが、セクハラされた為に即刻辞職してしまう。歯科医なら悪くない相手のはずなのに彼女には勝ち組に入らないらしい。
 紹介されたパーティーに妹を連れて参加し、妻と死別したばかりという外交官ピーター・サースガードと懇意になる。が、彼と付き合う為についた嘘が彼女ら夫婦に恨みを持つ妹の前夫アンドリュー・ダイス・クレイの出現によりばれて全ておじゃん。破局について正直に告白できず妹の家を出、居場所の判った家出息子からも彼女の旧悪故に突き放される。行く当てもない彼女はベンチで独り言をつぶやく。

野卑な恋人と住む妹の家に寄寓する姉がその見栄故に破滅していくという構図は、テネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」に似ている。ケイト扮するジャネット改めジャスミンは21世紀版ブランチと理解して概ね間違いないであろうが、虚栄を批判するように見えて実際はヒロインのロマンティシズムを破壊する男たちの非道をテーマとしたかの作品と違って、本作は見た目通りに虚栄による悲劇を描いている。より正確に言えば、現実を直視できない、直視しても見栄に負けてしまう故に迎える悲劇である。

映画は終始ヒロインのうらぶれた現在と華美な過去とを対比する形で進行する。一見不親切な現在と過去の往来に見えるが、何気なくマッチカット風に上手く繋ぐなどしていて混乱はなく、その過去の叙述により彼女が現在の環境に陥る過程が巧みに説明される。
 ハイライトと言うべきは、夫の浮気に我慢できなくなった彼女が彼を逮捕させた現実。ミステリー的な処理が鮮やか千万である。それにより財産を失い、息子から縁を斬られるようになったわけだから、自業自得と言って間違いないが、僕ら観客は彼女を簡単に責めることはできまい。それぞれの欠点を有するのが人間であり、僕は映画サイトでよく見かける登場人物への安易な批判、それに基づいて作品の評価を決める態度にしばしば首をかしげている。彼らは何故それほど、自分に全く性格の問題がないように振る舞えるのだろうか。それこそ高慢と言うべきだろう。

ケイト・ブランシェットは好演。演劇人風に気取って言えば、役柄の解釈が的確(笑)でした。

この作品ではリチャード・ロジャーズ作曲の名曲「ブルー・ムーン」がヒロインのテーマ曲のようになっているが、今年一月に観た「男の世界」(1934年)でも歌われていた。元来MGM映画「ハリウッド・パーティー」(1934年)の為に書かれた曲である。

今思うに母国で「インテリア」の評価が伸びないのはベルイマンの模倣性の高さ故か。夏目漱石が欧米で余り買われていない理由と似ているのも知れない。映画や小説は新味だけでなく完成度でもはかるべきなのだが。漱石が不利なのは、一般欧米人にはあのリズム感のある見事な文章に直接触れることが出来ないことに尽きる。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月22日 10:42
ウッディ・アレンのインテリぶりが鼻について嫌われているという話も聞きましたけどね。
アメリカ人は・・・・・ねっ(*_*)
早朝『ピンク・キャデラック』をやっておりましたが、こちらを好むアメリカ人は多いでしょうね。
オカピー
2015年02月22日 19:26
ねこのひげさん、こんにちは。

アレンは基本的に観客の知性を測る会話劇ですからね。「インテリア」はアメリカのインテリ層にも受けなかったらしいのですが、僕は70年代のベルイマンより感服しましたです。

>『ピンク・キャデラック』
映画館で観た記憶がありますぞ^^
zebra
2015年09月06日 21:03
DVDで見ました。ジャスミン 情けないしみっともなかったな~ みてると こいのふるまい みてると 胃がムカムカしますね。
けど それでいて ブラックユーモアの憎めない気持ちになるのはウッディアレンの演出の技術かな。

>本作は見た目通りに虚栄による悲劇を描いている。より正確に言えば、現実を直視できない、直視しても見栄に負けてしまう故に迎える悲劇である。
実はですね このジャスミンの落ちぶれを見てると、ボクのおじさんを思い出したんです。  バブル時期に板金の自営業をやってまして、 腕はよかったんですが 
「オレのいうとおり動いてりゃいいんだ」 
「さっさとやれや このばか」etc
従業員は 兄弟 従兄弟などを使ってたんですが 親戚だったためか横柄かつ横暴なふるまいでした。 ふだんの生活でも息子に対して押さえつける言い方だったり・・・そんなおじさんもバブル崩壊後 倒産して 従業員はもちろん子供たちも自立することもあってか みな愛想尽かして去っていき 奥さん つまりボクの叔母さんだけしか残りませんでした。

 倒産後 板金の腕を活かしてその道に再就職したり あるいは別の職種に再就職しようとしましたが いかんせん羽振りが良かったときの見栄っぱり根性が抜けれず 上からもの言う態度や 他人に使われるのがイヤで 仕事も上手くいかない・・・

 最終的に ただのニートのおっさんに 成下がったんですよ。 
威張ることしか能がなく 生活費も 叔母さんがパートを掛け持ちで やっと生活できたくらいだったんですよ。

 ジャスミンもね、普段の態度が上から目線なのはね・・・人間、成功している時の態度で「根」が分かってしまうのですね。 栄枯盛衰でいつかは必ず落ちぶれるのに 見栄ってやっかいです。
オカピー
2015年09月07日 21:37
zebraさん、こんにちは。

>人間、成功している時の態度で「根」が分かってしまう
その通りですね。
同僚としてあるお嬢さんが入って来たのですが、お嬢様育ちなのに苦労をいとわないタイプで感心させられたことがあります。結局、数年後京都の大富豪の家に嫁ぎましたが、どんな状況でも彼女は立派にやっていけそうです。
zebra
2015年09月12日 09:38
オカピーさん、おはようございます。
お返事ありがとうございます。

>同僚としてあるお嬢さんが入って来たのですが、お嬢様育ちなのに苦労をいとわないタイプで感心させられたことがあります。
 たぶん そういう方は 親が子供に社会勉強させるために
「学校を卒業したら、自分で自立しろ」 、と教えられたんでしょうね。

 名門の御曹司 令嬢といえども 社会に出れば いち社会人!社会の厳しさ 仕事で汗水流をして賃金を稼ぐことを体験させる。親の愛情です。

 ジャスミンは無一文になった段階で 見栄に負けず 謙虚で ボロいアパートでもいいから 自活してたら、と思います。ジャスミンみたいな境遇なら 気持ちを切り替えて 自活できる人もいるでしょうが できない人もいる。

>どんな状況でも彼女は立派にやっていけそうです。
お嫁に行っても ジャスミンみたいに上から目線、高飛車ふるまいはしないでしょうね。 したら 周りから顰蹙を買うのを知ってれば、ですが。幸せでいてほしいです。

 最後に・・・「ジャスミンのブツブツ独り言シーンはこえ~よ」
さすが、主演女優賞獲得女優^^
オカピー
2015年09月12日 21:01
zebraさん、こんにちは。

>ジャスミン
余り感じは良くなかったですが、歯医者と一緒になればそこそこ楽しい人生を送れたでしょうに。人間、自分を律するのはなかなか難しいようで。
演じたケイト・ブランシェットは昔から好きだったけれど、やはり大女優ですねえ。

僕(メーカーの営業部国際マーケティング所属)の同僚だったお嬢さんですが、自分のミスで製品のリワークを発生させた僕の上司が一人でリワークしているのを見かねて、早めに寮に帰った僕を呼びに来て「○○さんが一人でリワークしてるから、手伝いましょうよ」と言われ、仕方なく手伝いに会社まで行ったことがありますよ。三人とも無償奉仕ですよ^^;
○○さんも真面目だったので、翌日製造ラインに任せれば良かったものを、自分で。
そんな庶民感覚のある女性でしたから「上から目線」なんてないと思いますね。
めでたしめでたし(笑)
十瑠
2015年09月26日 14:01
今年観られた映画なのでこちらからTBしました。
「インテリア」を思い出すような辛辣さでしたが、BGMにコメカルな雰囲気を持たせて妙でした。
「欲望という名の電車」は僕もすぐに思い出しました。但し細部を忘れているので自信は無かったんですが。
最後に出てきた、ハルが逮捕される切っ掛けの暴露がなんともショッキングでパンチがきいてました。
アレンさん、まだまだ魅せてくれそうですね。
オカピー
2015年09月26日 21:27
十瑠さん、こんにちは。

>コミカルな雰囲気
苦笑いが出るという意味でコメディーでしたね。

>「欲望という名の電車」
妹の家に寄寓するプライド高い姉、という設定がそっくりでした。
「インテリア」はアレン版「三人姉妹」でしたし、アレン氏は、ベルイマンやトリュフォーといった映画人だけでなく、文学者からも色々と拝借しているようですね。

>最後に
自業自得と言われる所以ですが・・・^^;

>アレンさん
70年代から毎年一本ずつ製作。
凄いバイタリティーですね。

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