映画評「ラッシュ/プライドと友情」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年イギリス=ドイツ合作映画 監督ロン・ハワード
ネタバレあり

小学生時代プラモデルには興味がなかった僕も車そのものに興味があってTVでカー・レースを結構観戦した。1974年富士スピードウェイで日本人二人が同時に死ぬ事故にショックを受けた。当初大クラッシュに見えなかっただけに余計ショックだったのかもしれない。
 その後学業で忙しくなった(本当は映画と野球を観るのに忙しくなった)ので余り観なくなったが、アンドレッティとニキ・ラウダがF1で活躍した70年代後半は多少記憶がある。
 80年代後半フジテレビがF1中継を始めてから二、三年してレース熱が蘇った。セナとプロストの全盛期だ。

本作はそのセナとプロストの確執をも彷彿とするラウダとジェームズ・ハントのライバル関係を描いた実話の映画化だが、ハントの名前は記憶なし。F1チャンピオンになったのは本作の舞台となる1976年の一度きり、二年後早々に引退してしまったからだろう。

ドイツ実業家の御曹司ながらレースに魅せられたことで一家から勘当されて資金的援助を全く失ったラウダ(ダニエル・ブリュール)が、血筋なのかビジネス的才能を発揮して上手くコンストラクターとの契約を交わし、実績を積むことでF1トップ・コンストラクターのフェラーリとの契約に漕ぎ着ける。
 F3時代から因縁のあったいかにも体育会系のハント(クリス・ヘムズワース)が色々挑発してくるが意に介せず、やがて熾烈な年間チャンピオンを巡るポイント争いを繰り広げる1976年のシーズンが始まる。
 熾烈と言ってもフェラーリの性能は断トツ、シーズン序盤でマクラーレンに乗るハントとの差はかなり広がる。が、後半に入った第10戦ドイツ・グランプリでラウダがスピンを起こして炎上し重度の火傷を負うことで様相は一気に変わる。ラウダは奇跡的に蘇るが、二戦休んだことでポイントが一気に縮まり、最終第16戦、豪雨の日本グランプリでチャンピオンを賭けた戦いが繰り広げられることになる・・・筈が、降雨のドイツ・グランプリで負傷したラウダは開始早々にレースを放棄してしまう。それでもハントが3位以内に入らなければラウダの優勝である。ハントにも色々とアクシデントが付きまとい、レースが終わっても予断を許さない。

何とも映画向きにサスペンスフルな最終戦になっているが、wikipediaにも載っているように見事に劇的な実話なのだから“事実は小説より奇なり”。知性を感じさせるラウダと磊落なスポーツマン・タイプのハントとの確執的な関係が、事故を経て変わっていく模様がドラマ的に実にうまく構成されている。つまり、入院中におけるハントの猛ダッシュが闘志に火をつけたとラウダが記者会見で述べたことにハントが感ずるものを覚え、それが友情に育っていくのである。
 ラウダはその時の経験から“チャンピオンの座と言えども死には値しない”というレース観を得たようで、豪雨の中果敢に猛スピードで上位者を追い越していくハントとの対照が鮮やか、序盤に見せたビジネスマン的な冷静さがより鮮明になって終わる。ラウダ曰く、「嫉妬したレーサーは、ハントだけである」と。これは彼にはない(良い意味での)無謀さに対する評価であろう。

僕が最も評価しているレース映画は「グラン・プリ」(1966年)と「栄光のル・マン」(1971年)である。前者はレースと人間模様の綾を上手く絡めた秀作で、後者は詩的と言って良いフォトジェニックな画面が文句なしだった。豊かなドラマ性で「グラン・プリ」に、登場人物を絞った点で「ル・マン」に近く、ラウダの妻(アレクサンドリア・マリア・ララ)が負傷を心配する様子は後者を彷彿とする。

いずれにしても、二人のライバル関係を上手く描出して感動的なレベルにまで引き上げているのは脚本ピーター・モーガン、監督ロン・ハワードのお手柄である。「ル・マン」以来40年ぶりに現れたレース映画の傑作と言うべし。

因みに、セナの死と共に僕のレース熱はすっかり萎んでしまった。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2015年02月15日 18:03
ひさしぶりによいカーレース映画でありました。
情熱家と沈着冷静な人間とのライバル関係はわかりやすくて映画らしいです。

ホンダがレースに復帰しますね。
やっぱり、日本が出てないと・・・・ネッ!
オカピー
2015年02月15日 20:53
ねこのひげさん、こんにちは。

実話ですけど、そこに甘えなかった良質な脚本でした。ハワードも実話に配慮して正攻法に演出・展開して好感が持てました。

>ホンダ
商売で苦戦しているようですから、ここらで頑張ってもらわないと。
zebra
2015年11月01日 12:31
[マシンに乗って 調子に乗って ]

うわ~ クリボー(→クリス・ヘムズワース)Vsダニ二郎(→ダニエル・ブリュール)の対決やわな~(いったい どういうあだ名の付け方じゃい
正反対で反発しまくりやん(ライバル同士ならよくあるパターンやな)
お前がケーキなら 俺は饅頭じゃい みたいな(・・・だから、どんなたとえじゃい)

態度でッけえクリボー、 雨の状況を見て慎重なダニ二郎に 「フン、臆病者が」と挑発(男なら度胸だせよな、オイといわんばかりやわな)
 だった やったるわ やりゃあいいんだろうが やりゃあとレースに出たダニ二郎
もう~売り言葉に買い言葉だわなあ

・・が クラァ~ッシュ クラッシュ クラッシュ

 今まで 調子に乗って図に乗りまくってたクリボーが 自責の念だよ ジ・セ・キ(こーゆーヤツって他人の痛みは他人の痛みと オレには知ったこっちゃないぜえと言いそうなのにな)

しっかし ここからダニ二郎の見せどころ すっげえ~
 事故からたった42日でレースに復帰って・・・すっげえ生命力
 これじゃあダニじゃなくて ゴキブリみてえな生命力だわな~(→失礼)
富士スピードウェイでの決勝も またしても豪雨だったので 今度はリタイヤ(同じ失敗は繰り返さんのじゃな)

でも・・・王座を手放したのはもったいない
で、クリボーの優勝か・・・心境は複雑だよな~(ライバル同士って そうなのかもね
オカピー
2015年11月01日 18:44
zebraさん、こんにちは。

この時代はF1から離れていた時代なので、余り懐かしいという感じではなかったですが、感覚的に解るというか

>あだ名の付け方
いつも面白いですよ。
ゴキブリならぬダニ二郎は日本語では可哀想ですが(笑)

ゴキブリと言えば、9月にごきぶりホイホイに4匹ハツカネズミが引っかかりいました。ほぼ連日。家にいた連中が次々とかかったようです。

>クリボー
実際はハンコウもとえジェームズ・ハントですが、この後辞めてライバルのニキ・ラウダが勝つことになるので、まあここで取れて良かったですよ。

>もう~売り言葉に買い言葉だわなあ
堅実な男が・・・やめておけば良かったのにねえ。

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