映画評「ペコロスの母に会いに行く」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・森崎東
ネタバレあり

漫画家・岡野雄一氏の自伝的エッセイ漫画(コミック・エッセイとも言うらしい)をベテラン森崎東が映画化した人情喜劇。森崎監督だから“人情喜劇”と紹介したが、この作品は洋風にヒューマン・コメディーという感じで、いつもほどハードボイルドではない。

長崎で生まれ育ち、漫画を描いて歌を歌いセールスマンをしている岡野ゆういち(岩松了)が、妻と離別した後一人息子まさき(大和田健介)と力を合わせて、90近い母親みつえ(赤木春恵)を介護しているが、認知症が重くなった為、逡巡しながらもケアマネジャーに勧めを受け入れてグループホームに入居させ、母親が自分を正しく認識することが減り続ける現実を受け入れた後、他の家族との交流を経、やがて「認知症も悪いこもばかりではない」という心境に至る。

というお話で、ペーソスとユーモアを絶妙に配分するのは、日本の喜劇の得意とするところで、近年この類のうまい作り手が減っているが、森崎監督はその点鮮やか。

ハゲでの笑いが多すぎるのはどうかと思うところがないでもない反面、認知症がオレオレ詐欺防止になる皮肉な展開などは、認知症に対するポジティヴなアプローチとして愉快であり、実に可笑しい。

映画作りとして興味深いのは、最近のことは憶えられない母親が忘れることの出来ない若き日(原田貴和子)を回想というよりはフラッシュバックする箇所が、我々にとっては回想場面として画面に現れる、という扱い。
 これが、地元のランタン祭りで亡夫(加瀬亮)、長崎で被爆した後赤線に身を落とした後死んだ友人(原田知世)、戦中病死した妹と記憶の中で再会する終幕の場面に結びつく。主人公にもこの三人が見えるかのように半ば客観ショットとして扱われ、主人公をして「良かったね」と言わしめる一幕は、心境次第では感涙したにちがいない。と、仮定法で書いたように、今回感銘するところまで行かなかったのは、僕がまだこの作品を皮膚感覚で実感していないからだと思う。

多分僕の場合両親が死ぬまでしっかりしていたから実感が湧きにくいのだろう。厳密には人間計算機と言われて暗算が得意だった父親は療養生活のうちに引き算に苦労するようになって僕をがっかりさせたが、所謂認知症に至る前に亡くなった。母は僕より余程明晰な頭脳を最後まで持ち続けた。
 まあ、経験については僕の言い訳であるが、老いた母親の認知症を扱ったお話であることを知った上で観た僕の期待ほどじーんとさせて貰えなかったのは事実で、これについては出来栄えより僕の感性の問題ということにしておきましょう。

思いがけぬ姉妹共演だったなあ。お久しぶりの貴和子さん、老けたけど演技は達者になりました。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年12月14日 09:34
映画はおかしくも悲しくも楽しめるものでしたが・・・・
現実には悲しいことが多かったでしょうね。
ねこのひげは両親が認知症になってへこみましたけどね。
オカピー
2014年12月14日 18:10
ねこのひげさん、こんにちは。

映画ブログをやられている方の中にも少なからず認知症の親御さんを抱えていらっしゃるようで、近年碌なことのない僕もそれに関しては恵まれたと思います。

ご両親共とは大変でしたね。

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