映画評「愛のむきだし」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・園子温
ネタバレあり

園子温の名前を知ったのは「紀子の食卓」(2006年)によってで、異色の内容やスタイルに俄然注目し、その後チャンスがあれば全て付き合うことにしている。しかし、ここ10年くらい殆ど受動的鑑賞態度を決め込んでいるから、あくまで“チャンスがあれば”であり、WOWOWにでも出ない限りは観ず、この作品も公開当時相当話題になっていたものの放置していた形。改めて調べてみると2009年1月公開だから6年前にもなるのだと時の経つ速さに驚かされてしまう。とにかく、インターミッションを入れて丁度4時間の長尺映画がやっと観られる。

クリスチャンの少年・西島隆弘が母親を失ってから愛する女性マリアを求める人生行路に乗り出したように、父親・渡部篤郎は神父になる。父親は新たにクリスチャンになった女性・渡辺真起子にストーキングされた挙句に極秘の同棲生活を始め、結婚をしてくれない彼に業を煮やして彼女が家を飛び出すと、自らの罪悪感から息子に罪の告白を強制し始める。
 罪を犯さない息子は故意に罪を犯し、やがて聖職者が最も嫌がるであろう性絡みの軽犯罪・女性のパンチラ盗撮を始める。盗撮仲間の罰ゲームとして女装して町に繰り出している最中に同世代の少女・満島ひかりが不良たちに絡まれている現場に遭遇、応援に向ったところから彼がマリアを見出した彼女に好かれるようになる。但し、男嫌いの彼女ゆえに女性として。
 この不良たちは、実は、勢力を増やそうと企むカルト教団“ゼロ教会”の高校生幹部・安藤サクラが少女が町に戻って来た渡辺真起子の連れ子と知って遣わしたもので、結局寄りを戻し四人家族として再スタートした一家の中に入り込み、少年が盗撮を暴露されて家を離れている間に三人を教団に連れ去ってしまう。

以降、彼が少女を“向こうの世界”から取り戻そうと悪戦苦闘する模様が派手なアクションを交えて繰り広げられるが、主人公の女装が梶芽衣子の「サソリ」を意識しているように、1970年代前半くらいの邦画の乗りでこしらえられている感あり。
 つまり、「紀子の食卓」をより奇想天外に発展させたような物語は、同作よりぐっと娯楽性が高いと言えるわけだが、非常に通俗的な要素を満載しているにも関わらず、詩人でもあるこの監督の特質でどこか純文学的な香りが抜けきれない為、観ていて落ち着かなくなるのは僕だけだろうか?
 人間を用意したテーマに沿って実験台に乗せている印象からはキム・ギドクの作品世界に近くて寓意的であり、暴力的な傾向に通ずるものがある三池崇史よりぐっとファンタジー色が強い(本作は実話云々と言われているが、AV業界にいた兄が妹をカルト教団から救い出したという部分をモチーフにしただけだろう)。かくして理屈っぽいからすっきりしないところがあるものの、“変態の純愛”といった矛盾若しくは対立する要素のうちに人間の不可解さを観るなら本作は大変面白く出来ていると思う。

現在における満島ひかりの人気はこの作品における大体な演技がきっかけであろう。後半の叫ぶ演技は「川の底からこんにちは」でも同様の場面があったことを考え合わせると、下手をすると役柄の固定化に繋がる可能性があったが、現在の躍進ぶりから判断する限り幅広く活躍出来ているのは何よりと言うべし。

また、ラヴェルの「ボレロ」とヴェルヴェット・アンダーグラウンドもどきが使われる音楽(原田智英)も印象的。

「EUREKAユリイカ」221分より長く、「ヘヴンズ ストーリー」278分より短い。邦画において何年かに一度こういう純文学系長尺映画が発表される時代になりました。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年12月30日 08:45
長い長い映画でありましたね。
おっさんあ、疲れるから短くしてほしいです。
満島ひかりさんは、アイドルのころ、かわいい子がいるな~と印象に残っていたので、女優として開花されたのはうれしい限りであります。
もっと、おもしろくなりそうな女優さんでありますね。
オカピー
2014年12月30日 18:22
ねこのひげさん、こんにちは。

>長い長い
長くて空疎な映画が多いので、邦画鑑賞本数が激減していますよ。
今月は70分台の短い映画が二本、100分未満も相当あるのに、平均すると120分と長いので参りました。この調子だと来年はもっと減りますぞTT
二日に分けて観るつもりでしたが、一日で観ましたよ。尤も食事に合わせて分割して観ましたが(笑)。「もらとりあむタマ子」が3本観られる長さですものねえ。

>満島ひかりさん
TV俳優と違って、映画俳優がCMに出るとなると、大物です。
本当に面白くなりそうな人です。

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