映画評「激怒」(1936年)

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1936年アメリカ映画 監督フリッツ・ラング
ネタバレあり

1972年にジョージ・C・スコットが主演して監督までした力作と同じ邦題だが、こちらは渡米したフリッツ・ラングのアメリカでの第一作のほう。大旧作ながら、珍しく再鑑賞にあらず。

シカゴから婚約者シルヴィア・シドニーに会いに遥か彼方の西部の町を目指した朴訥な男性スペンサー・トレイシーが、到着の直前の町で誘拐犯と間違えられて逮捕・拘留されるが、噂に火が付いて義憤に駆られた22名の町民が留置所に駆けつけ、暴動の末に火を放つ。しかし、後日彼が無実と判明したので大騒ぎになる。
 他方、火傷を負いながらも運良く生き残ったトレイシーは復讐に燃え、二人の弟の前に戻り、22名を死刑に追い込もうと弟たちをけしかける。
 かくして始まった裁判では、検察側がニュース・フィルムを証拠に追い込めば、弁護側が死体の出ないことを根拠に無実を主張する丁々発止の展開、業を煮やしたトレイシーが一部溶解した証拠の指輪を匿名一市民として送り付ける。しかし、彼の生存を知らされたシルヴィアがその行為の非人間性を説得して彼の許を離れると、やがて彼は法廷の場に姿を現す。

アメリカ映画だから幕切れを筆頭に合理的にすぎると思われる部分が散見されるものの、見事な秀作である。切れ味と緊迫感はさすがに「ドクトル・マブセ」(1922年)や「M」(1931年)といった犯罪者絡みのサスペンスで卓越した演出力を披露したラングと唸らせるものがあり、噂が伝染するシークエンスの扱い、幕切れのトレイシーの顔のクロースアップから(直前まで現場に姿が見えなかった)シルヴィアのアップへの切り返しなど、迫力がある。

それ以上に注目すべきは、アメリカの悪しき慣習たる私刑と一人では無辜の人々をそうした狂気に追い込んでいく群衆心理の恐怖である。群集心理の恐怖を描いた作品と言えば、アーサー・ペン監督「逃亡地帯」(1966年)がまず思い浮かぶが、本作はぐっと直情的に扱っている為それ以上に鬼気迫る出来と言って良い。
 原作(原案?)のノーマン・クラスナはアメリカ人だからアメリカに関する問題を取り上げたのは間違いないが、フリッツ・ラングがバートレット・コーマックと共同で脚色に当たった時に祖国ドイツへの思いがなかったかどうか。1936年製作だからまだ祖国の国民が戦時中ほどナチスの狂気に染まっていたとは思えないが、国民が群集心理的な狂気に陥っていることを素早く見抜いて本(脚本)を書いた可能性は否定しきれない。

この映画を観ている人は少ないだろうなあ。是非寄ってくださいね、などと書いても、残念ながらこれを読む人はもう寄ってくださっている。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年10月19日 17:01
ジョージ・C・スコットの『激怒』も劇場で観ましたが、スコットは右翼タイプの俳優と思っていたので、巨大権力に対する反骨があって驚いたのを覚えてます。
こちらの『激怒』は昔NHKで見た記憶があります。
オカピー
2014年10月19日 18:50
ねこのひげさん、こんにちは。

>ジョージ・C・スコット
右翼タイプと感じられたのは「パットン大戦車軍団」のイメージかもしれませんね。

>昔NHKで
放映された可能性は大いにありです。

この記事へのトラックバック