映画評「思秋期」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年イギリス映画 監督パディー・コンシダイン
ネタバレあり

俳優のパディー・コンシダインの初メガフォン作品だそうである。しかし、名前を聞いたことがあっても顔が思い浮かばない。若い頃は脇役俳優でも名前と顔が大体一致していたものだが、最近はとんとダメでござる。調べてみたら、「イン・アメリカ 三つの小さな願いごと」(2002年)の父親でした。

「思秋期」という邦題から「黄昏」(1981年)や「晩秋」(1989年)といったタイプの老境映画を思い浮かべ観始めたところが、大分違った。

妻に先立たれ失業中のピーター・ミュランは怒りを抑えることができない傾向があり、酒による怒りに任せて愛犬まで殺してしまう。そうした絶望感に苛まれながら入ったのがチャリティ・ショップで、店を営んでいる女性オリヴィア・コールマンから優しく声を掛けられる。心では嬉しく思いながらも信心深い彼女の言葉を素直に受け入れる余裕がなく、上流階級の偽善者と罵ってしまう。後日再び店を訪れる彼の心情は推して知るべし。
 反面、彼の存在に気付いた彼女の夫エディー・マーサンは生まれついての嫉妬深さを発揮して何かにつけて暴力を振るう。彼女は家を出てミュランに頼ろうとする。ミュランは口に反して介助しようと彼女の家を訪れ、彼女が家を出る前に夫を殺害したことを知る。やがて、隣人の犬を殺した罪で服役したミュランは出所すると彼女を刑務所に訪ねる。

アプローチは英国下層階級に視線を下降するケン・ローチにかなり似ている。ただ、彼より社会に対する批判的スタンスが希薄で、個人の問題として人間そのものに迫ろうとしている気がする。

オリヴィアとマーサンの夫婦は信心深い。主人公ミュランとしてみれば信仰は胡散臭い。結局二人の様子を見れば、胡散臭いと思った彼の考えは正しいように思う。ジョン・レノンは歌った、「神は、人にとって、自身の痛みを測る道具(概念)である」と。正にそれを地で行くオリヴィアである。結局彼女は夫の暴力について神(信心)に頼り切れず、遂に酒に頼り出す。そして行き着いたのが自分には神が何もしてくれないと怒りを抱えるミュランということになる。彼の怒りに自身の悲しみと似たものを感じたに違いない。彼女の安心感はそこにあったと思う。

過程が厳しすぎてやりきれなくなる。その代りそこを乗り越えられたら捨てがたい後味が待っている。いかにも英国らしい配役陣も誠に好調。余りに描写が厳しいので心情的にこたえて☆を抑えてしまったが、大人の映画ファンには一見の価値あり。

正に僕は主人公の年代である。思秋期か。この言葉はピンと来すぎて怖い。

この記事へのコメント

2014年02月09日 09:26
積雪、そちらはいかがでしたか?
冬は冬でも、雪積もるという前提に
なっていない地域では対応が大変そう。
こちら、売るほどあります雪は。(笑)

思秋期とっくに越えた当方から観ますと
登場人物に振りかかる艱難は、まだ彼らが
人生やり直せる年齢でありその素地がある
証であると感じましたね。
ビリビリ痛みが迫るような撮り方は
おっしゃる通りケン・ローチ的でした。
味気ない原題より邦題「思秋期」もグッド。

味気ないといえば、新作ばかり観てますと
突如欲求不満の波が押し寄せましてね
えらく旧い邦画を先日観まして記事に。
言葉足りずとも、巧い監督と名脚本、
そして名優で、映像から豊潤な言葉が
あふれ出る瞬間を堪能できました。

初監督パディー・コンシダインまだ40歳。
役者さんでいっぱい映画出演して資金ためて
またこのような秀作撮って欲しい。それと
前にも言いましたね、俳優出身の監督作は
ニューマン、レッドフォード、イーストウッド
並べるまでもなく、まんず、作風、暗い!(笑)
オカピー
2014年02月09日 15:30
vivajijiさん、こんにちは。

凄かったであります。
恐らく生涯で初めて見る降雪量ではないですかねえ。同じ群馬でも親戚のいる水上(みなかみ)のほうではメートル単位で積もっているわけですが、こちら西部地区では長野の山を越えられずに雪は余り降りません。
車の上に積もった雪を指で測ったら二つ分ありましたから40cm弱でしょう。30cmくらいなら何度か遭遇していますが、ここまでのは多分ないと思います。小学生の時古い家の縁側の高さまで降った時も凄かったですが、縁側の高さがどのくらいだったか。子供には高く見えてもそれほどでもなかったのかも?

>「思秋期」
抜群に良い邦題ですね。この言葉自体を配給会社が考え出したのかと思いきや、そうでもないみたいです(笑)
そう言えば、昔そんな歌謡曲があったような気がします。

>新作
60歳までは新作中心に観るつもりなのですが、どうも昨今の体たらくでは旧作中心になるのがもう少し早まるかも・・・です。
どのジャンルも本当につまらない。
敢えて言えば、ドラマでは本作のように良い作品がちらほら出てきますが、今の精神状態ではきついものが多いのが玉に瑕。
一度見た昔の映画は安心して観られるので、精神衛生上非常に良いですね^^

>俳優出身・・・作風、暗い!
確かに(笑)
そういう性格の方だから俳優だけでは物足りずに、作り出すということなんでしょうけど。
暗くても後味次第というところですが、本作の途中は本当にきつかった。
ああ、しんど(笑)

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