映画評「ダンシング・チャップリン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・周防正行
ネタバレあり

映画評を書くのが面白くないドキュメンタリーの中でも芸術ドキュメンタリーは特に厄介である。
 告発ものは内容を伝えるだけになりがちで“面白くない”わけだが、芸術ものにはそれに加えて僕の発達していない右脳で感じたものを文章に変換するという左脳をも駆使する作業が必要で、これが僕にはひどく厄介なのだ。
 ただ、本作は監督が現在の日本娯楽映画作者の中でも有数の周防正行であり、素材が映画の祖の一人チャールズ・チャップリンだから書かないまでも観ないわけには行くまい(と思って観た)。

映画は二部構成で、第一部(第一幕)はバレエ“ダンシング・チャップリン”が出来上がるまでの舞台裏を収録している。フランスの振付師ローラン・プティが1991年にイタリア人バレエ・ダンサー、ルイジ・ボニーニを主役に発表したバレエが"Charlot Danse avec Nous"で、これに周防監督が細君の草刈民代(本作の収録を最後に完全引退)を加えて映画用に再構築しようと発案、試行錯誤の末に出来上がったのが第二部として紹介されるバレエ“ダンシング・チャップリン”である。

第一部に非常に興味深いシーンがあった。周防監督がチャップリンの至言「警官と女と公園があれば映画になる」にならって警官を公園に登場させる演目を提案してみるが、舞台での効果を優先させるプティは猛反対する箇所である。双方の立場から判断して至極当然の発言と言うべし。
 しかし、第二部を見るとちゃんと警官姿のダンサーが本当の公園で踊る演目が二つ挿入されているから、周防監督がプティ氏をうまく説得したと想像される。やはり映画というからには、ステージ収録とは違っていなくてはね。勿論ステージだけでも、ズームを駆使したり、アングルを変えたりして映画的な効果を十分出せるし、実際周防監督の撮影指示は秀逸であるが、それだけでは映画的な面白さを欠いたであろう。

演目としては、サイレント映画らしさをよく出している「黄金狂時代」、第一部で苦労する様子が紹介された「モダン・タイムス」をモチーフに黒子を大いに活用した“空中のバリエーション”(使われる曲は“スマイル”)、「ライムライト」をモチーフに上半身だけで披露される“小さなトゥ・シューズ”が印象深い。“小さなトゥ・シューズ”は「黄金狂時代」へのオマージュでもある。

第一部で周防監督がチャップリンの墓を訪れ、じっくりと礼拝するのが、映画界の大先輩への敬意がよく現れていて感激致しました。

チャップリンが死んだ日のことは今でも思い出す。12月25日だったので、友人に「クリスマスをチャップリマスに変えよう」などと馬鹿な手紙を書いたのだった。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年09月02日 17:30
12月25日に死ぬとは・・・と絶句しました。
チャップリンらしいですね。

チャップリンで思い出されるのは、人気絶頂だった時の萩本欣一さんが、スイスに行って、なんとかチャップリンに会おうと努力するドキュメンタリーです。
執事の阻止するのをくぐり抜けて会おうとするのが面白く、最後の日にチャップリンがカメラで写さないのであればとあってくれて感激して出てきた萩本さんの姿が何とも言えずよかったですね。
オカピー
2013年09月02日 21:31
ねこのひげさん、こんにちは。

>萩本欣一さん
なるほど、チャップリンらしい挿話ですね^^
観てはいませんが、聞いたことがあるような気がします。

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  • チャップリンと踊ろう~『ダンシング・チャップリン』

    Excerpt:  国際的な振り付け師、ローラン・プティがチャップリンの映画にインスパイア されて創作した2幕20場面の舞台を、周防正行監督が1幕13場面に再構成 し、映像化した映画。演じるのは、これも国際的な.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2013-09-01 16:36