映画評「マイウェイ 12,000キロの真実」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年韓国映画 監督カン・ジェギェ
ネタバレあり

マラソンをテーマにした「マイ・ウェイ」(1975年)という凡々たる南ア製(出演者は白人)映画があったが、意図的か偶然か本作もマラソンがテーマというかモチーフである。

1948年ロンドン・オリンピックで強豪を次々と追いぬいて行く無名の韓国人選手は誰か、という正体探しがお話の始まりである。
 1928年日本占領時代の京城、日本から渡るや否や、使用人の息子キム・ジュンシクが走るのが好きと知った同年輩の少年・長谷川辰雄はライバル心を燃やして競争を始める。その後二人は“日本を代表する”マラソン・ランナーとしてしのぎを削り合うが、辰雄は成長(オダギリジョー)するに連れ猛烈な民族主義者となり、数年後暴動の罪で軍隊に送られたキム(チャン・ドンゴン)とノモンハンで冷酷無比な隊長として再会する。

この辺りまでは日本人が尽く鬼のように描かれ、僅かに辰雄の父である医師(佐野史郎)にヒューマニズムを感じさせる程度に終始するので韓国ナショナリズム発揚の映画になるのではないかとヒヤヒヤしながら観ていたが、彼らがソ連に敗れ捕虜になる辺りから人間描写のバランスが取れ始め、大分落ち着いて観られるようになる。

通奏低音となっているのは、戦争による狂気である。各々の大義名分が違うだけで、戦争の狂気にとりつかれた人間の行動はつまるところ同じ、ということである。

命を長らえる為即ち将来マラソンに復帰する為にソ連軍に身を投じた二人は今度はドイツ軍によって命を救われる。ソ連軍指揮官の態度が自分のそれと重なった辰雄は反省して鬼のような皇軍軍人から変心する。勿論、懸命に彼を救おうとするキムの姿勢が彼の差別意識を払拭させて友情を覚えさせるという要素が手伝ってである。ノルマンディー上陸作戦に遭遇したドイツ軍上官の態度もまた同じであり、ここに至って辰雄はキムを何とか生き長らえさせるよう尽力するが・・・無名の韓国人選手は戦死したキムの代わりに彼の名前で出場した辰雄である。

“いやあ日本人も悪く扱われていないではないか”と言いたいところではありますが、意地悪く見れば、朝鮮若しくは韓国人を日本人と称してオリンピックに出場させた実話の裏返し(日本人が韓国人として出場する)を美談として見せられているようなものと理解できないでもない。
 従って、経済大国として成長した韓国の余裕を見せつけられているような感もあり、完全にすっきり観られるとは言えないながら、それでもあの鬼畜のままで終わるよりは勿論良い。

それ以上に印象に残るのは「ブラザーフッド」に続いてカン・ジェギェ監督が見せる戦闘場面の迫力である。細かくショットを切りすぎてよく解らないところもあるが、VFX技術を上手く利用したカット割りによる迫真性は断然他を引き離すものと言うべし。但し、三回ある戦闘場面はさすがに長すぎるので夫々2~3割短くして貰えるともっと良かった。いくら素晴らしくて延々と続くのは勘弁願いたい。

さすがにフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」は流れません。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年11月29日 06:45
最近の映画って、戦闘シーンが長いですな~
まだ、続くのか・・・・と思う作品が多いです。
バランスというのも、すこし考えてもらいたいですな。
CGのおかげで、楽に作れるようになったせいでしょうけどね。

先日、NHKで特撮の話を監督3人がしておりましたが、一発勝負だそうで、0・1秒ずれると、映像では1秒ずれるので、大変だと言っておりました。
オカピー
2012年11月29日 21:06
ねこのひげさん、こんにちは。

香港カンフー映画の、アクション・シーンも長かったですねえ。最近はいくらかバランス感覚がついたようで、大分マシになりました。
戦争映画の戦闘シーンは仰る通り、逆のパターンに陥っております。

>特撮
それが良いんですよね。
フィルムは1本十万円ですから、俳優やスタッフのちょっとしたミスでも、それが吹っ飛んでしまう。昔の撮影現場は緊張感が今と比べ物にならないほど高かったでしょう。
黒澤明とか溝口健二とか怖くて難しい監督も多かったから、現在のように笑って済ませられなかったんですよね。
ジャッキー・チェンは好きですが、一時必ずおまけについていた最後の失敗集は僕は感心しなかったです。

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